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猫には感傷なんてややこしい感情はない

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 中には俺の群れの牝や子猫の死骸もあったが、大半は敵のもの……俺は群れを守り切ったのだ。
 群れの牝の一匹が俺の左目を舐めてくれた……びくっとするほど痛んだが、どうやら見えることろを見ると、目玉そのものは傷ついていないらしい。
 俺はまだもがき苦しんでいる敵のボスに歩み寄った。
 こいつは俺を殺そうと跳びかかってきたわけだが、率いている群れが逆ならば俺もそうしていただろう、こいつには恨みも怒りもない、だが、群れを代表して俺はこいつを殺さなきゃならない。
 俺は奴の喉笛に噛みついて止めを刺すと、独り群れから離れて行った。
 今夜は月がやけに明るい……俺は月を見上げた。

 強い者が生き残り、弱いものは淘汰される。
 それは自然の摂理で仕方がないことだ、俺はかつて愛した牝を殺し、おそらくは自分の子も……。
 だが、今の俺の使命はこの群れを守ること、そして俺はそれを全うした……ただそれだけのことだ……。
 
 猫には感傷なんてややこしい感情はない、ただ……虚しさくらいは感じることもあるんだ。
 殺らなければ殺られていた、それは間違いない、俺自身も群れも……だから、殺った。
 それだけのことだ。
 
 でも、ちょっと独りになって月を見上げてみたくなることもあるってことだ。
 月はずっと夜の空に輝いている、多分俺が生まれる前から、そして死んだ後も……。
 とにかく今を精一杯生きる、それだけだ、そもそも精一杯でなければ生きられないんだから……。
 
 俺はしばらく月を見上げ、そして群れの中へと帰って行った。