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哲学者の苦悩

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炬燵は私の部屋にあり、部屋全体も暖かく仮にゾンビが襲って来ようとすぐに中和できるような神聖なる空間なのだが、一度扉をあけると地方から飛び出てきたものの意外と人当たりが冷たい都会のような風がビル風のように隙間からヒューヒュー私の身体に体当たりしてくる。自己承認欲求の強い私は、確かに人生一度はヒューヒュー言われてみたいものだと夢見ていたが、まさか今言われるとは思わず、期待していた都会とは違い意気消沈してしまった田舎者のように、防空壕という名の炬燵に潜る羽目になった。もし私が坂口安吾ならば防空壕から飛び出て偉大なる破壊に酔い痴れるであろうが、この状況のようにその破壊が極寒であるなら、きっと彼も常日頃から防空壕で暮らしていたはずだ。

「少佐殿!せ、戦略的撤退を所望す!!」
「ならん!我々大日本帝国軍は前進あるのみ!!」

そうであった!忘れるところであった!私にはやらねばならないことがある。もし神聖なる火の傍に身を抱えていけば溶けてしまうこのチョコアイスは、然るべき所へと返却しなくてはならない。そのために私一等兵は全戦力を挙げ、この任務を完遂しなくてはならない。
我が部屋からリビングにある冷凍庫までなのだが、これは実際江戸から蝦夷までの距離に相当する。名前や響きは似ているが中身は全く違う、このアイスのように。
私は日本男児であることを思い出し、炬燵から這い出た。

「我が一生に悔いなし!であえ!であえ~~!!!」

自分自身を鼓舞し、あたりは戦場へと移り変わる。極寒の地、蝦夷にという名のリビング行くにはそれもまた極寒の地、東北という廊下を通過しなくてはならない。しかし今の私はフランス戦争へ向かうナポレオンと同じく、この寒さに負けるなどむしろ不可能なのだ。

「あんたなにやってるの」

身だけが凍えていた蝦夷、そこにはアイヌ人ならぬ姉がいた。しかもリビングに長時間いたのか、エアコンもついていて私の部屋と同等に神聖な温もりを感じた。

「ふ、お主にはわからぬさ。この戦をな」
「なんでもいいけどあんたさっきから大日本帝国軍とか江戸とかナポレオンとか、設定ごちゃごちゃじゃない」

作品名:哲学者の苦悩 作家名:茂野柿