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哲学者の苦悩

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まあそれはともかくとして、太ることは幸せであり、太れるということはこの世が平和の証であり、例え誰が私になんて言おうと私は私の炬燵で、私が一昨日買ったアイスを食べるということは邪魔できないのである。人間はそもそも幸せになるために生まれてきたのであって、他人の目なんぞあってないようなものなのだ。その幸せを体形が醜いというだけで人を陥れようとする輩はさぞ毎日鳥の胸肉を食べ、野菜を食べ、プロテインを飲み、きっと筋トレに勤しんでいるのであろう。おお、なんて恐ろしい、考えるだけで筋肉痛になりそうだ。それはそれはストイックな生活ではあるが、筋トレとは心臓と筋肉に負担をかける行為であり、太るか筋トレするかならきっと身体の負担は変わらないのだ。となれば私は好きな時に好きなものを食べ、好きな時に寝、好きなことをして生きており、社会的ステータスとストレスから解放されているということの裏付けになり、それは即ち私はとても健康的で長生きするに違いない。

いかんいかん、私は一介の哲学者であると同時に、教師でもあり、なにより人間であるのだ。それゆえ「幸せ」というものにどうも弱い。
哲学とは考えることにあると私は心得えており、それは何にでも当てはまるとも言う。即ちそれは、バニラアイスを取ったと思ったらチョコアイスであり、炬燵の中にいる私は、それは極寒の中一つの温泉に漬かっている状態と言っても過言ではなく、妥協してチョコレートアイスに泣き縋るか、バニラアイスを食べに己の内なる修行を優先するか、非常に哲学的な問題に直面しているのである。

あまり猶予はない。私の持っているアイスと同様、人生あんまりにものんびりしていたら大事なものはすぐなくなる。しかし、少し溶けたアイスはカッチカチのアイスとは違い口の中で蕩けやすく、なにより知覚過敏の私にとってカチカチのアイスを食べて歯がキーンとなるよりかは幾分マシであり、のんびりした先にあるものも決して外れではなく思いがけない当たりに直面する可能性もある。だがそれはバニラであれば最高の状態なのであり、その一点のみ、即ちチョコ味だということにのみ目を瞑ってしまえば幸せになれるのだ。熟考するのが好きな私にとってこの状況は非常に難解である。と思ったのだが、炬燵の中に入れればすぐ最高級のアイスを量産できることをひらめき、同じ条件であるのならば妥協することではなく、多少寒くても食べたい方を取りに旅へ出る方が幸福指数は高いことに気づいた。もしや私は少し溶けたアイス業界に進出したら大儲けなのではないか?と考えたが、現実はそこまで甘くなかった。

作品名:哲学者の苦悩 作家名:茂野柿