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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.3 タカシ








愛ちゃんはどさりと子供部屋の床に倒れて、すぐに目を開けた。その時愛ちゃんの顔は、元の人間らしい、子供らしい女の子の顔に戻っていた。起き上がってきょろきょろと周りを見回すと、愛ちゃんのそばには見知らぬ僕たちが居て、くわえて部屋が真っ青になっているのを見て驚いて泣き出し、階下に居るお母さんのところへ駆けて行ってしまった。

僕と刑事さんは驚き、喜びながら、どこか恥ずかしいような気分で笑い合い、階段を降りて行った。すると、二階からとたとたと愛ちゃんが降りて来る足音を聴いたのか、飛び出してきたお母さんが愛ちゃんを抱え、泣きながら抱き締めているところだった。


「愛、なんともないの?お部屋で怖くなかった?」

「うん、なんともないよ。でもね、大変なの!お父さんがいなくなった時、わたし見たの!」

「何を…?」

愛ちゃん以外の、大人である僕たちの間にその時緊張が生まれた。大人なれば、誰だってこの世界的な怪異の秘密を知って、それを止めたい。そして取り戻したい。特に愛ちゃんのお母さんは、居なくなった旦那さんの心配をしているのか、必死に愛ちゃんを見つめて、「何を見たの?」と聞いた。愛ちゃんは大人がみんな険しい顔つきで自分を見ているので、怒られると思ったのか、なかなか言いたがらなかったけど、ついに口を開くと、大声でこう言った。


「青いランドセルで、青い服を着た子が、わんちゃんと一緒にお父さんを連れて行ったの!私、お父さんの部屋を開けようとした時、見たの!ねえ!お父さんを取り返して!その子きっと、悪いことするんだから!」


そう言っている愛ちゃんを奥さんはなんとかなだめて抱き締め、愛ちゃんの背中越しに、不安に追い詰められているような目を、僕たちに向けた。僕はその時、「絶対に春喜とタカシだ」と確信した。






「それにしても、弟さんでしたか」

刑事さんは、葛飾区警察署の刑事課に所属する、大木さんという人だと、愛ちゃんの家から帰る道々、自己紹介をされた。

「はい。確証がなかったので…それに夢物語みたいな予想でしたから、言いづらくて…でも、初めに行方不明になったのは、僕の弟でした…」

「それで、あのお宅の旦那さんが残したらしい、「子供が」というメモ書きに一縷の望みを懸け、あなたはやってきた。愛ちゃんがあなたのことを「おにいちゃん」と呼んだのはもちろん弟さんの姿を見たことが関係しているんでしょうが、なぜ愛ちゃんがあんな状態だったのかは、あなたにもわからない。話しづらかったという気持ちはわかります。でもまあそんなに気にしなくても、我々が生きているこの世界では、夢物語どころではない天変地異が起きているんだ。素直に話してくれてもよかったですよ。まあ、信じるには私も時間が要ったでしょうが…」

僕たちは大木さんの用意してくれたコーヒーを紙カップで飲みながら、刑事課の室内に戻って、そんなふうに話し込んでいた。

「まあ、奥さんと愛ちゃんについては、もう心配はあまり要らないかもしれません。むろん、旦那さんが居なくなったからこれからは大変でしょうが、愛ちゃんがあの状態のままでいるより、いいでしょう…」

大木さんはそう言った後ちょっと黙っていたけど、やっぱり僕を見て、こう聞いてきた。


「あなたの弟さんが、世界中の人類をさらっている…んでしょうか…?それとも、あなたの弟さんが、なんらか大勢の人たちを集めた、人々をさらうテロ組織の一員で…」


そう言いかけたけど、大木さんは首を振ってから笑い出した。

「いやいや、馬鹿馬鹿しいですな、すみません。そんなことがあるわけがない」


大木さんは笑って自分の言うことを下げ、顔の前で片手を振ったけど、僕は不安なままだった。あそこまで証拠らしきものがたくさんあったんじゃ、あんなに強烈な「春喜を表すもの」があったんじゃ、とても「弟は無関係でしょう」なんて言えなかった。愛ちゃんの部屋の、真っ青に見えるまで春喜とタカシの姿で塗りつぶされた壁が目の裏に蘇り、僕の背筋がぞくりとする。


それにしても、本当になぜ春喜が現れたんだろう。やっぱり人々を人知れず連れ去っているのは春喜なんだろうか?そうだとしても、なぜそんなことを?そして、なぜ春喜にそんなことができるんだ?僕はそんな尽きない疑問に埋もれ、コーヒーをいつの間にか飲み終わってしまった。



僕は大木さんと、「愛ちゃんが元気になってよかった」という話だけをして、胸の内にある不安は口にせずに別れ、僕はそのまま新宿へと帰って行った。