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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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「おいあんちゃん!起きろ!敵襲だ!」

僕はその怒鳴り声と、肩を思い切り揺する腕で目が覚めて、びっくりして飛び起きた。そのまま服も着替えず顔も洗わずに、僕はロジャーさんに連れられ兵舎を飛び出して、集合場所へ向かう。

集合場所となっていた門と兵舎の間の訓練場のような場所には、もう兵長や隊員が出揃っていて、僕たちは兵長に「遅い!」と怒鳴られた。

「これで全員揃った!戦場まではそう遠くない!気を引き締めていけ!奴らを全力で排除しろ!ではこれから車で移動する!」

二人くらいの兵士が引いてやってきたのは、大きな大きな荷車のようなものだった。でも、車を引いているのはどう見ても馬ではなかった。その動物は馬車に三匹繋げられていて、毛足が長い大きなモップ玉のような、ずんぐりむっくりした見た目だった。毛が長い牛みたいだ。三匹とも顔の両側から二つの角が突き出していて、鼻息も荒く前足で砂を掻いている。僕たちはその馬車に次々乗り込んで、馬を引いてきた兵士がぴしっと一鞭くれると、車は戦場へと走り出した。


馬車に乗っている時、ロジャーさんが慌てて僕のところへやってきた。

「そういえばお前のギフトを聞いてなかったな」

僕たちは馬車にガタゴトと揺られて会話すら聴き取りづらい中、話を始める。

「ああ、それは…」

「聴いておいた方が俺たちが具合が良いんだ。作戦も立てられる」

ロジャーさんの目には、なんの疑いもなかった。僕も、自分が悪いことをしているわけじゃないのは知ってる。でも彼に、シャーロットさんのことを思い出させたくなかった。僕の能力は、「消し去る」ことなのだから。でも僕がこれを言わなければ、戦場で誰かが不利な場面に追い詰められるかもしれないんだ。

僕はちょっとロジャーさんに申し訳ない気持ちで微笑み、「右手をかざすと、ものが消えるんです」とだけ言った。彼はそれに驚いて目を伏せ、すぐに取り澄まして「そうか、わかった」と答えてくれたけど、もう僕の方を見なかった。




そこは、一滴の水も無い岩場だった。兵長が一番前に立って僕たちにこう言う。

「先ほど監視者からの報告で、ここから前方20キロの地点でモンスターが3体確認された!第一班はその地点へ向かえ!第二班もそれに続き、第一班の戦闘が見通せる高地を選んで援護をするように!他の者はここで待機!」

全員が「はい!」と返事をして、僕たちはモンスターとの決戦場へ歩き始めた。




歩き始めてしばらくして、僕は何かが呼吸している音のようなものが聴こえてくることに気づいた。僕の前には白髪の小さな少年を連れたヴィヴィアンさん、その前にロジャーさん、そしてロジャーと並ぶようにジョンさん、僕の後ろには吹雪さんが歩いていた。

「あの…何か音がしませんか?」

僕がそう言うと、さっきからイライラとしていた様子のヴィヴィアンさんが振り向き、「何もしないよ、黙って歩きな」と突っかかってきた。でも僕には確かに聴こえていた。かすかにだけど、「フウウ…スウウ…」と、大きな体で何者かが息をしているような音が、ちらっとだけど聴こえてくる。

すると白髪の少年は立ち止まり、「ほんとだ。近いよ」と、何気ないけど低く引き締まった声でつぶやいた。隣に居たヴィヴィアンさんも、他の全員も辺りを見回す。でもどこにもそれらしい影は見えず、背の高いジョンさんが近くにあった岩の柱のような高い場所へ登ろうとした。彼はひょいひょいと岩場を登り、こちらを見下ろす。そしてみるみる顔を凍りつかせて、大声で叫んだ。

「下だ!全員食われるぞ!逃げろ!」