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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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僕たちが足元を見ると、岩場だと思っていたものは、巨大なモンスターの顔だった。それはゴツゴツとしていて岩に似てはいたけど、確かに瞼が二つあり、横長の鼻の穴から、土煙を舞い上がらせている。大きな口は土中に隠されているのか見えない。

「ひっ…うわあっ!」

「逃げろ!」

「走って吹雪!」

「早く!早く!」

僕たちは蜘蛛の子を散らすように次々と逃げ、その気配でモンスターは目を覚ましたのか、土の中からがぼっと一気に体を現した。硬い殻のようなものに覆われた体全体はゆうに10メートルはあり、ぶらりとそこから長い前足を下げて地面につけ、鉤爪で地面を引っ掻き、僕たちをその目と鼻で探していた。

僕は全員がどこに逃げたのか確認しようとしたけど、驚いたことに、白髪の小さな男の子は、岩場の陰にも隠れずに、平然とモンスターから15メートルくらいの場所に立っていた。もちろんモンスターは一番先にその子を見つけ、後ろ足を蹴る。

「あぶない!!」

僕がそう叫ぶのと、男の子が両手をモンスターに向けたのは同時だった。

「あっ…!」

モンスターはそれ以上走ることは出来なかった。その体は音もなくぷかりぷかりと宙に浮き上がり、高く上がっていったからだ。モンスターに向かって両手を差し伸べている白髪の子は涼しい顔でロジャーさんを振り返る。その顔は、どこか楽しそうにすら見えた。

「どうする?ロジャー。焼く?」

すると岩場の陰からロジャーさんは出て、隣の岩場に居た僕を手招きする。僕はおそるおそるながら、宙吊りにされてもがき続けているモンスターを見上げた。男の子の両手がじりじりと震えだす。

「早くして。ちょっと疲れてきたから」

男の子は額に汗を滲ませて僕たちを振り返った。ロジャーさんは僕を振り向く。

「お前の力を見せてやれ、みんなに」

僕が戸惑ったままでいると、ロジャーさんは「おいお前ら!もう大丈夫だから出てこい!新入りの力試しだ!」と四方に響くように叫んだ。みんな出てきて、僕たちの周りに集まりだす。

僕は不安だったし、気が進まなかった。まだこの力は使い慣れていないし、いくらなんでもあんなに大きいものが、兵長のインク瓶と同じようにすっと消えてしまえるわけがない。それに、この隊の人たちの苦い記憶を呼び戻してしまうんだ。

「ううう…」

苦しそうなうめき声に白髪の少年を見ると、少年は汗みどろになって、空中に向かって必死に震える両手を押し上げていた。

「早く!落ちてくるよ!」

「あんちゃん!やるしかねえ!」、ロジャーさんもそう叫ぶ。

僕はとにかく空中にぶら下げられたモンスターに向かって右手を構え、目を閉じて、「消えろ!」と念じた。それは一瞬のことだったけど、自分の手のひらが、かっと燃えるように熱くなったのを感じた。

おそるおそる目を開け、空を見上げると、何も無かった。いや、青い青い空に、ぽっかりと白い雲が浮かんでいるのが見えた。上手くいったのかと思って地上に目を戻すと、僕の前に居た白髪の少年が、ゆらりと倒れようとしているところで、僕は思わずそれを抱えようと走り出していた。