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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.13 消えた彼女、消す力








僕たちは、怒鳴り散らしていったヴィヴィアンさんを見送ってロジャーさんの部屋に入った。ロジャーさんは窓際にあった小さな木製の丸椅子に腰掛け、その前のテーブルに腕をもたせかけた。椅子はもう一つあった。

「まあ掛けな。話をしよう」

僕は小さなテーブルを挟んでロジャーさんと向かい合い、自分もテーブルに肘をついた。まるで内緒話をしているような小さな声で、ロジャーさんは長い話を始める。その前に、彼はちょっとくたびれたように微笑んで、ため息を吐いた。でもそれは、そんなに思い詰めているようには見えなかった。

「この部屋には…もう居ない兵士が俺と同室で入ってた。名前はシャーロット。シャーロット・ウォーターズ。俺と同じで、元の世界ではイギリスに暮らしていたらしい。ここに来るまでは、会ったことはなかったけどな」

そう言ってロジャーさんは懐かしそうに目を細め、すぐに下を向いて小さく笑う。もう一度顔を上げた時、彼の目には深い悲しみがあった。それから彼が消え入りそうな声で喋るので、僕は少し身を乗り出した。

「シャーロットは、強かった。彼女の能力は、相手のすべての動きを、一時の間まったく止められる力だった。そこを俺が焼き尽くす。俺たちはそうやってパートナーを組んで、闘ってた。シャーロットの強さはそればかりじゃない。どんな時でも冷静で、だから絶対にタイミングを逃さなかった。それで俺たちは信頼し切っていて、あいつがあんなことになった時、見逃しちまったんだ…」

そこでロジャーさんはしばらく悲しそうに眉を寄せて、ぐっと涙を堪えているように唇を震わせながら必死に閉じていた。僕は、「あんなこと」とはなんなのか聞きたかったけど、ヴィヴィアンさんが「シャーロットを殺した」と言っていたので、その先を僕が言葉で聞き出そうとすることも出来なかった。それに、それが春喜の手によってなされたのだということの詳しいいきさつも…。

やがてロジャーさんは涙を封じるためにきつく目を閉じ、鼻の根本を押さえて首を振る。

「…あいつは、あの日俺たちが対峙することになった怪物に飛びかかられて、首元に噛みつかれたんだ…。もちろん、俺がすぐに焼き払った…。でも、その時すでに、シャーロットは正気じゃなくなってた…。俺が焼いた奴は、毒を持ってたんだ。だからシャーロットはそれに侵されたのか、錯乱したようになりながらも俺に向かって自分の力を使い、襲い掛かってきた。噛みつこうとしてな…」

僕は、ロジャーさんが語ることに次から次へと驚いていたけど、それを顔に出すことは出来なかった。これは彼の辛い記憶だ。最後まで僕は邪魔をせずに聞かなきゃならないと思った。ロジャーさんはそこでついに涙をこぼし、悔しそうに歯を食いしばって、テーブルに乗せていた手に力を込めて拳を震わせていた。

「俺が…俺たちがあいつのことをちゃんと見ててやりゃあ、あんなことにはならなかったんだ。俺がどんなに後悔したって、一生謝ったって、あいつはもう帰ってきやしないだろう…」

ロジャーさんはそれからごく近くを見るような目をして、まるで今目の前でそれが起こっているように、その先を話してくれた。

「シャーロットが俺に飛びかかってこようとした時…突然「ハルキ様」が現れたと思ったら、シャーロットは俺の前から消えちまったんだよ…まるで霧みたいにな…」

それで僕は半分くらい合点がいった。そうか。春喜はそれをしたから、軍の人たちから恨まれているのかもしれない。ロジャーさんは、額を壁にぶつけようとする時のような動きで、なんとか悔しさを逃がそうとしている。そのたびに、テーブルを涙の粒が叩いた。

しばらく黙ってロジャーさんは泣いていたけど、顔を上げて僕を見つめる。

「あの時、もしハルキ様がああしなかったとしたら、俺たちは全滅だっただろう。シャーロットは誰の動きでも止められるんだからな…だから、お前の弟がしたことは、残るみんなを助けるためだったと俺は思う。でも、ヴィヴィアンやジョンはそうは思ってねえ。吹雪なんかは元々そんな考え方はしねえが、…ヴィヴィアンたちは、「ハルキ様はただ面倒ごとを片付けたかっただけだ」と思ってるんだ。だからお前はあんなふうに言われたんだ…。すまねえ。でも、ヴィヴィアンとシャーロットは特に仲が良かったから、頼むから責めないでやってくれ。あいつも傷ついているんだ…。すまねえ、頼むよ…!」

ロジャーさんが必死に僕に懇願するその目は、確かに僕と、僕の弟を信じてくれている目だったけど、やっぱり悲しそうだった。僕はとても居た堪れなくて、自分も泣きそうになるのをなんとか堪えた。

「わかりました…。ロジャーさん…あなたはとても、優しいんですね」

僕がそう言うと、ロジャーさんはちょっと笑って顔の前で片手を振った。

「そんなことねえよ。それに、「さん」付けはやめてくれ。「ロジャー」でいい」



その晩、二段ベッドの上の段をロジャーさんは譲ってくれようとしたけど、僕はそれは遠慮して下の段に寝ていた。

「ロジャーさん」

もぞもぞと布団を動かす音がして、「なんだぁ…?」と、眠そうな声がする。

「僕、頑張ります」

「…おうよ、おやすみ」

「おやすみなさい」