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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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「タカシ!」

「わあ!タカシさまあ!」

僕がタカシに近づく前に、愛ちゃんがお母さんの手をすり抜けてタカシにしがみついた。タカシは愛ちゃんの頬を頻りに舐めていて、愛ちゃんはくすぐったそうに身をよじる。

「くすぐったいよお~!」

愛ちゃんは嬉しそうにきゃっきゃと笑っている。僕はちょっと手持ち無沙汰に周囲を見渡していて、また気づいたことがあった。


タカシのそばを通っていく人はみんな、タカシがそこに居るのを満足そうに見つめて尊敬の眼差しのまま微笑むと、真っ直ぐ前を向いてまた歩き出していく。


タカシもまた、この土地の人たちにとって、特別なようだった。



僕は一人ぽつんと取り残されたような気分になって、“自分だけが元の世界に帰りたがっているんだな”と、わかってしまった。そうして僕はうつむいていたけど、愛ちゃんがこちらを振り向いて、タカシを抱きかかえたままこう言う。

「ねえおにいちゃん!おにいちゃんはハルキさまのおにいちゃんなんでしょう?どんな“ おちから ”を使うの?」

「これ、愛!言葉が過ぎますよ!」

愛ちゃんのお母さんは慌てて愛ちゃんを諌めようと叱ったけど、僕は、なぜそんな事が必要なのかが分からなかった。

「すみません、小さいもので礼儀も知らずに…」

愛ちゃんのお母さんは、そう言って僕に頭を下げる。でも僕はどうしたらいいのかわからず、「自分だって普通の人間なんだ」と言いたいのをなんとか堪えていた。

「いえ、そんな…」

「タカシ様を連れて、議会や軍などを案内して差し上げましょう。最後に宮殿に戻れば、ハルキ様もタカシ様を通じて口を開くことができるでしょう」

僕が戸惑っている様子を見かねてか、オズワルドさんがそう言うと、愛ちゃんは悲しそうな顔をしてタカシにすがりついた。

「いや!いや!もっと撫でるの!」

「こら、愛!もう行きますよ!」

愛ちゃんのお母さんは無理にタカシから愛ちゃんを引き離して、もう一度僕たちに向かって頭を下げ、それから顔を上げて僕を見ると、どこか夢を見ているような目で僕を見つめた。

「すみませんでした、本当に…あの時は、あなたにもお世話になりまして…きっとあなたにも素晴らしいお力があるのでしょう。ハルキ様と一緒に、この世界をよろしくお願いします」


僕はその言葉に曖昧に頷くことしか出来ず、オズワルドさんと一緒に「議会」へと向かった。


街の中を縦横無尽に走る煉瓦の道はごつごつとしていたけど、どこかあたたかい踏み心地で、家々の石壁には色とりどりの花を植えた植木鉢が下げられていて、僕の目を和ませてくれていた。人々は行き交いながら挨拶をして、店らしき建物から出て来る人たちはみんな、満足そうに荷物を提げて家かどこかへ歩いて行く。店の中を覗き込めば、働いている人たちはお客と楽しそうに笑い合っていた。


僕は、そんな幸せの風景を見ているはずなのに、“自分の弟はこの世界では本当に神だと思われていて、自分にも期待が寄せられている”と分かってから、どうしたらいいのかわからず、呆然としたまま街中を歩いた。



愛ちゃんは、春喜が現れて自分のお父さんを連れ去った時の恐怖を覚えていなかった。僕の顔も忘れてしまっていたらしい。

それに、愛ちゃんのお母さんは、もうすっかりこの世界に順応してしまっている。僕はそれがなぜかとても恐ろしくて、みんなみんなが幸福に暮らしているのをさっきからずっと見ているはずなのに、背中に寒気が忍び寄って脇腹のあたりまでを掴まれているような不安が消えなかった。