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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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Episode.8 見知らぬ人々








老人の正体はこの土地の議長だった。もうこの地には議会が開かれて久しいらしく、一年ごとに交代するので、自分は三人目だと語った。

「お名前はなんと仰るんですか?」

僕が道道そう聞くと、議長は昼日中の燦々と降り注ぐ日光を額に浴びて僕を振り返り、「わたくしは、オズワルド・ジャン・デュ・プレと申します」と優しく微笑んだ。


ええ?じゃあ、フランスの人なのか?確かに、僕はここに来てから気を抜く暇がなくて全然気づかなかったけど、彼はとても日本人には見えない高い鼻を持ち、濃く深い堀りのある表情だった。でも、フランスの人が、こんなに流暢な日本語を喋ることが出来るんだろうか?

僕はそのことにちょっと不自然を感じて、考えるために下を向いた。するとオズワルドさんがくすっと笑う。


「…ハルキ様はお小さい方ですから、わたくしどものフランス語はお分かりになりません。ですが、平和の実現のため、皆が等しく言葉を交わせるようにと、ハルキ様はお力をお使いになり、わたくしが別の言葉を喋っても、貴方様にはご自分がお分かりになる言葉に聴こえるような、そんな世界にしたかったようです」

「ええっ!ではあなたは今フランス語を?」

「もちろん。わたくしは元は、生まれも育ちもフランスですから」

僕たちはその時、街の門の目の前に辿り着いたところだった。街の門は、高さ十メートル、幅は八十センチはあろうかという、長く太い丸太を何本も横に連ね、鉄で補強したものだった。その門の中央に、オズワルドさんが手をかざす。そこには大人の手の形を型どった金属板があり、それが一瞬青く光ると、とても人の力でなどでは動かないだろう重そうな門が、僕たちに向かって、ずずっ、ずずっ、と少しずつ開いた。そして僕たち二人がその間に体を滑り込ませると同時に、門はひとりでに背後でぴたりと閉められた。

僕は自分が今まで学校で習ってきた物理法則がだんだん壊されていくような気がして、一種のショックを受けていた。オズワルドさんについていく時に一度門を振り返ったけど、もうそれは動かず、そびえ立った山のようにじっと黙って僕を見下ろしていた。

門を入ってすぐは、あまり木の多くない、人の手で作られたような林だった。僕とオズワルドさんは、その林の向こうにちらちらと見えている街に向かって歩いている。僕は林の中が少し涼しくて誰も居ないのでちょっと薄気味悪いような気がして、時たまちらっと後ろを振り返っては、誰も居ないことを確認していた。

それから、林の中を歩いていて気づいたことがある。この林の中には、僕が見た事のある木は一本も無い。皆どこかシダ類を思わせるような葉をしていたけど、図鑑でもテレビでも見た事がない大きな葉を、幹からだらりと垂らして地面に這わせ、地面には苔のようなものが生えていた。でもその苔のようなものも、以前見た事がある苔とは違って緑色の米粒のような大きさで、踏んでも潰れはしない、丈夫なプチプチのようだった。僕が林の中をそうやって観察している時、不意に甲高い声がした。


「オズワルドさま!」


僕が声がした方を振り返ると、オズワルドさんが屈み込んで一人の女の子の頭を撫でてやっていた。その子には見覚えがあった。

「あ……!」

それは、あの時見た、「愛ちゃん」だった。僕は急なことにびっくりしたけど、愛ちゃんをその時ここで見つけたことで、「ここには本当に、元の世界の人たちが連れられてきたんだ」と、わかった気がした。