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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第一部>

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「…我々はこの力のことを、「ギフト」と呼んでいます。ハルキ様が「ギフト」を得た者の夢にお出になり、力を使う方法をお授け下さいます。それは、我々の世界を脅かす外からやってくる者のためです。人々はハルキ様がお授け下さったこの力のお陰で、安息と平穏を保てるのです。お兄様であらせられる貴方様にも、そのうちに、お印が表れることでしょう」

そう言いながら老人はすべてを知っているような顔で僕を見つめ、一度頷いた。僕は無意識に首を横に振ってしまった。

「なんですって…?つまり、それは超能力みたいなものなんですか?お話から察するだけですが、まさかたくさんの人がそんな力を…?」

僕はこればっかりは信じられなかった。そんな話は、ファンタジー小説や漫画でしか聴いたことがない。それに僕もそんな力を持つだろうなんて、信じようがない。だって僕は普通の人間だ。ましてやそんな力を人々に与えて回っているのが春喜だなんて、到底有り得る話だとは思えなかった。僕はだんだん頭が回らなくなってきて、うつむいてため息を吐く。老人は話を続けた。

「毎朝斥候が見回りに出かけ、侵入者があれば、見合った「ギフト」を持った者が排除に向かいます。戦場でハルキ様の光るお姿に助けられた者も数多くおります。ハルキ様はこの地を護って下さっています」

老人は当たり前のように「戦場」という言葉を口にした。それに、そこに春喜が現れると。でも待ってくれ。春喜はずっとここで眠っているんじゃないのか?僕は老人が話すことがますます噛み合っていない気がしてきた。

「春喜が…?それに、侵入者とはなんですか?ここは一体…」

驚きや疑問ばかりでくたびれてしまっていた僕は、ろくろく考えることも出来なくなっていたけど、かえって「早くすべてを聴き終えて解放されたい」と焦っていた。老人は僕にお茶をひと口勧めたので、すっかり忘れていたそれを僕は飲んだ。お茶を飲むと、不思議と疲れが少し抜けるように思えた。老人は僕の質問に答える。

「侵入者は、様々な姿をしています。あとで記録をお見せ致しますが、それらとの闘いに必要な力を、ハルキ様は我々に授けたのです。相手を打つ力、防護壁を張る力、傷ついた者を即座に癒せる力と、我々の力も様々にございます。ですから、この世界には手に持つ武器はございません。それに、平常時には、先ほどのような限られた必要のある時を除きまして、その力を使うことは出来ません」

「では、あなたは…傷を癒す力をお持ちなんですか…?」

確かにさっき、僕は老人が何らかの方法で一瞬にして傷を治すのを見た。だから、それとは違う力があることだって、考えられなくはない。でもそんなことはあり得ないはずだと、僕の本能は老人の話を拒絶している。実際にその力を目で見たにせよ、僕はいきなりすべてを受け入れることは出来ずに混乱していた。

老人はふと春喜の方へ顔を向けて幸福そうに微笑むと、そのまままた、どこを見ているのかわからない顔でこんな話をした。

「新しい世界は皆幸福で、それを分け合って平和に暮らしています。私たちは…三年前まで、神と心を交わすこともなく、神の姿を見ることも出来ませんでした。それは人類にとって、答えのない永遠の問いを胸の内に押さえ込んでいかなければいけない、大きな孤独でした…。ですが、今はそのお姿を拝することが出来、目に見える形で我々全員を守って下さる、新しい神が居て下さるのです。人類にとって、これ以上の幸福があるでしょうか…」

僕は老人がそう話すのを聴きながら、途方に暮れていた。「春喜はそんな神なんかじゃない」と言ったところで、この老人は絶対に聞き入れないだろう。薄気味悪さを感じるほど春喜の存在に心酔し切っている。

「…ハルキ様は、貴方様をこちらにお呼び出来ないことを、長い間、お嘆きになっておいででした。…我々はいつもハルキ様をお慰めして、なんとか貴方様をお呼びするため、元の世界を監視できるギフトを持った者が貴方様の窮状を見つけて、その時に初めてハルキ様はお力をお使いになり、貴方様をこちらにお連れ申すことが出来ました。」

なんなんだ。なんなんだ。一体これはなんなんだ?僕にはもう老人の話をまともに聴いている余裕など無く、頭がわやくちゃになって取り乱しそうになるのだけを必死に堪えていた。

「ハルキ様は今、幸福でしょう。そのうちにまたお目覚めになり、貴方様とお話をすることになることと思います。ですが、我々は思うのです。…ハルキ様はこの世界をお守りになるのに多大なお力をお振るいになりますために、もしかしたら長い間目を覚ましていることは、難しいのかもしれません…」

僕は、老人が次から次へと繰り出すわけのわからない話に、「もうやめてくれ!」と叫びそうになるのを抑えて、おそるおそる春喜の眠っているベッドを振り返った。春喜はただ静かに寝入っていて、起き上がることはない。すると、僕の前で老人は急に立ち上がった。


「それでは、街の方へ案内致しましょう。今日はそちらにタカシ様がいらっしゃるかもしれません」


テーブルの上のティーカップは、いつの間にか消え失せていた。僕は眩暈がしそうになりながら、なんとか立ち上がった。