シロアリバスターズ
この家は、郊外の一軒家にしては外観が新しい。恐らく若い夫婦が、親の援助で建てた家だろうと想像がつく。そして平日の昼間だと、突然の訪問者を拒否する勇気がない若い主婦が、一人でいる確率が高いので、営業のきっかけとしての点検作業が取りやすい。
「消毒って、今どのお宅でやってるんですか?」
「ああ、それはお答え出来ないんですよ。噂になったらイヤだって言うお客さんがほとんどなんで、我々も守秘義務があるんです」
ぬけぬけと答える植村だが、実際は消毒工事なんかしていなくても、いつも同じことを言っている。
表の道路に停めた営業車から小寺がこちらを見ていた。そこで植村は人差し指で宙を突くようなしぐさの後、斜め下に切るように手を振り下ろして合図した。点(てん)と剣(けん)。つまり点検(てん・けん)が取れたという合図だ。それを確認すると、小寺は車を移動させ、次のターゲットを探しに行った。
「柱を見ただけで判るんですか?」
「ええ、雰囲気で判ります。湿気の匂いでもシロアリが付いてる家と、そうでない家は違うんです」
これは実際にそういうものなのだ。専門的にその仕事をしていると、当たり前のように感覚が身に付いて、外から家を見ただけで、シロアリがいるかどうかの予想ぐらいつくのだ。
「今までうちでシロアリなんか見たことないです」
「そりゃそうですよ。シロアリは光と乾燥にものすごく弱いんです。だから人の目に付くところになんか、絶対に出てきません」
「じゃ、どうやって見付けるんですか」
「家の周りを観察して、シロアリが侵入した形跡がないか探すんです」
「どういった形跡を?」