シロアリバスターズ
昼からの薬剤散布が始まった。庭でコンプレッサーが回る音が響き、床板の裏に吹き付けられる高圧スプレーの音がうるさい。暫くすると植村は、廊下から主婦を呼んだ。
「すみません。換気扇の設定方法を説明しておきます」
そして二人で脱衣場に行くと、コントローラーの説明を始めた。
「・・・と、まあ、こんな感じです。やってみて下さい」
主婦は言われた通り、柱の横に取り付けられたパネルのスイッチを押して、タイマー設定を試みる。そのすぐ横に立つ植村は、体を主婦に急接近させ、主婦を包むように肩越しに腕を伸ばし、設定をサポートした。
「これで設定で、こうするとリセット、わかる?」
「うん、1日に2度回したい時は、どうやるの?」
「それは、もう一回・・・」
この時の会話は重要である、必要以上に体を近付けていることを察知しながら普通に会話する主婦は、拒否反応を見せていないということだ。
「はい、以上で説明終わり」
「ありがとう」
「これで今日の仕事終わってしまった」
「まだ、昼過ぎなのに?」
「結構暇なんで、また近く来た時、寄ってもいい?」
「・・・うん。私も暇なんで」
「じゃ・・・」
植村は、背後から主婦を抱き締めた。一瞬身構えた主婦は、
「ああ、だめだよ」
何とかその腕を振りほどこうとするが、植村は主婦を抱いたまま、強引に自分の方に振り向かせ、背中を壁に押し付けて、
「いいでしょ。暇人同士、ちょっと暇つぶししようよ」
もしこの時、気まずい結果になれば、植村は現場を去り、小寺か岩田が戻って来て後を引き継ぐのだ。彼らは日常的にこういう仕事の仕方を楽しんでいた。