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八九三の女

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[千]



当然の事ながら社長は少女に
借金返済の目途が立つまでは叔母に会うな、と釘を刺す

「会いたきゃあ会えばいいが、支払いが遅れたら容赦しない」

「どうなるんですか?」

間髪入れず聞き返す少女に社長は押し黙る
覗き込む、その目が泳ぐ事はないが何処となく上の空に見える

多分どうにもならない
と、思うが社長の手前、答える

「会いません」

それでも、メッセージで遣り取りするのは許容範囲内のようで
携帯電話を取り上げられる事はなかった

毎晩、受信する叔母の文章の最後には必ず、こうある

「イヤなら帰っておいで」

でも、返事は打てない
自分は社長との生活が嫌ではないからだ

それに叔母には、これを機に自堕落な生活を見直して欲しい

ホストの事は多少、目を瞑るにしても
自分の身の回りの事は自分で出来るようになって欲しい

と、思うも直ぐに思い直す

ホストの事も目を瞑っちゃ駄目だ
瞑った結果、こんな事になっちゃってるんだから
叔母にはとことん反省して欲しい

けど、こんな事になっちゃってる「今」が嫌じゃないから困っている
そう思う自分の気持ちが分からないから困っている

依然、カウチソファで眠りにつく社長は知っているのか
この生活が長く続かない事を知っているのか

自分が一緒に寝ている事も知らずに
共同生活は続いていくのか、それとも終わるのか

社長の温度が伝わる
社長の寝息が聞こえる

馬鹿馬鹿しい

いつかは終わるに決まってる
叔母の借金が完済すれば終わるに決まってる

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫