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八九三の女

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[青い春 part4]



前置きもなく
突飛な発言をする小鳥遊君を月見里君は思い切り、振り返る

どうした?!
負け戦で気でも触れたのか?!

だが、まじまじ見つめる親友の横顔は
死を前に覚悟を決めた高潔たる武将の如く、穏やかだ

そして、いとも簡単に足を止め
答える気でいる少女も大したタマだと、改めて思う

本当に面白い

異性として相手にされない小鳥遊君には悪いが
同性感覚で付き合っている月見里君にとっては面白さしかない

「ううん、してない」

あっさり否定する少女に小鳥遊君は素直に納得する
「黒」だと確信していた月見里君も「そうなんだー」と、頷いた

少女は嘘が苦手だ
小鳥遊君、月見里君二人の一致だ

だが、思い出したように少女が付け足す

「一回だけ、手でした」

途端、食い入るように少女を見つめる月見里君の横で
小鳥遊君は目の前が真っ暗になる

そうか
そうだよな

キスマークを許す相手なんだ
当然、行為に至る前提は確立されている訳だよな

同性感覚でも、目の前の少女は異性に違いない
好奇心的欲求を抑える気はない
月見里君が瀕死の小鳥遊君を介錯する勢いで、聞く

「社長さーん、我慢出来ないってー?」

言う訳ねーなー
あの男はむっつり助平だー

自分と一緒で
言うよりも言わせたい系と見たー

むっつり助平に一目置く、小鳥遊君の前では言えないので
月見里君は心の中で言いたい放題、言う

「出来るって言ったけど」

「させなかったんだー!やるー!」

微かに頷く少女を冷やかしつつ
最早、反応しない小鳥遊君の腕を肘で小突く

「また明日」

「うん、また明日ー」

何気ないが、また明日も三人の関係が続いていく
そんな約束が生まれた事が嬉しくて月見里君は何故か、こそばゆい

そうして駆けて行く少女の後ろ姿を見送る
小鳥遊君の腕を取り無理矢理、手を振らせる月見里君が呟く

「どしたのー、お前?」

突然の、小鳥遊君の御乱心の理由を知りたかったが返事はない
どうやら復活に時間が掛かるらしいので、少し待つ

「おーい」

再び、月見里君が声を掛けたのは
どっぷり日が暮れ、校庭脇に設置された外灯が自動に点灯した頃だった

「別に」

月見里君に掴まれたままの腕を振り払い、吐き捨てる

「部田も最高だけど、社長さんも最高だ」

親友の完敗宣言を受けて月見里君が微笑む

「お前も最高だけどー」

「マジか?」

「マジー」

満更でもない様子の小鳥遊君を余所に
荷物を取りに教室目指し、校舎へと向かう足を止めた
月見里君がぼそりと言う

「女子に告白されてるしー」

「なんでそれを?!」的な視線を向ける小鳥遊君に
月見里君は得意満面で「俺の情報網を侮るなかれ」的に、にやつく

言うつもりはなかった
相談するつもりもなかった

だが、バレてしまったのなら言うしかない

「実は断った」

中中、月見里君の返事はない

若しかしたら呆れているのかも知れない
これから先、あるかどうかも分からない告白を断るなんて
自分でも何様なんだと思うし

唯、告白されて気が付いた
他人に好意を持たれる事の苦悩、苦痛、諸諸

好きになるかも知れない
好きになれないかも知れない

自分自身、曖昧な気持ちは御免だ

結果、女子の告白を断った
結果、部田への思いを断ち切る決意をした

「お前らしーい」

数歩、先を進む月見里君が振り返り
にかっと笑う、その反応に小鳥遊君も釣られて笑う

馬鹿だろうが
真面目だろうが

ポジティブ思考だろうが
ネガティブ思考だろうが
最初の一歩は自分自身で踏み出したい

こいつなら理解してくれると思った
こいつになら理解してもらえると思った

こいつは軟派な振りして、実際は硬派だから

「お前は?」

バスケットボールを突きながら、歩く月見里君の背中に話し掛ける
居残り練習で使用するバスケットボールは彼の自前だ

「なにー?」

「金貸し屋になるって、言わないの?」

前回、相手がホストだと知った時は
「俺もホストになる!」と、息巻いていたが今回は金貸し屋だ

俺達の負け、とは言ったが俺と違ってお前には分がある

なんてたって、お前は変態の人誑しだ
本気を表に出せば適う相手等、そうはいない

「言わなーい」
「目指すなら一流ー、それ以外は意味がなーい」

ホストならば紹介雑誌で仕入れた情報で
界隈一のホストがいる店に弟子入りすればイイ話しだ

だが、金貸し屋は情報がない

「一流の金貸しって、誰よー?」

立ち止まる月見里君
立ち止まる月見里君の背中を立ち止まり眺める、小鳥遊君

そうして思い当たる節があるのは、一人しかいない

振り返る月見里君
振り返る月見里君の視線を受けて視線を返す、小鳥遊君

途端、声を揃えて叫ぶ

「無理無理無理無理無理ー!」

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫