八九三の女
[母親]
先祖代代、裏街で続く金貸し屋
娘は稼業を嫌い、家族を嫌い、父親を嫌っていた
その一方で父親の稼ぐ金でしか生活出来ない
選択肢のない、自分自身に嫌悪していた
籠の中の鳥は飛ぶ事も歩く事も知らず、時間だけを過ごす
選択肢のない、婿養子を取り
授かった一人息子に稼業を継がせると知らされた時
全てを捨てて生きていくには遅過ぎる、と悟った
籠の中の鳥は何よりも何よりも、籠の外に出るのが怖かった
選択肢のない、人生ではない
選択する必要のない、人生だったのだと思い知る
稼業所か、家族すら牛耳る父親
跡取りとして母親でもなく父親でもなく、祖父に育てられた
跡取りに似付かわしくないモノは容赦なく排除される
不憫に思うも両親はなにも言えない
分かってる
分かってるよ
それでも母親が必死になって守ってくれた、ユキ
「女女しい」と、言う理由で奪われるのに、そう時間は掛からない
母親の死後
父親は長い物に巻かれるように祖父に付く
社長が小学校に入学する、間近の出来事だ
誰かを憎むのは
誰かを愛するより容易い
なにかを壊すのは
なにかを育むより容易い
分かってた
分かってたよ