八九三の女
[卒業式]
裏街と表街では貧富の差が激しい
勿論、食い物にされる人間は何処にでも存在するが
数が程度が裏街では、その比ではない
そして、負の遺産を負うのは子どもだ
表街の小学校、中学校に通う裏街の子ども達の中には
衣食住も儘ならない子ども達がいる
裏街、表街の子ども達が迎える、卒業式
教師達も親達も分け隔てなくの精神の元、平等にと考え
卒業生皆、これから通う中学校の制服で参加する
ボランティア活動のお陰で制服が手に入らない生徒はいない
所謂、救済処置だ
「幸せに、羽ばたいてほしい」
そんな思いで教師達、親達は勿論の事
見ず知らずのボランティア達一同、卒業生皆を送り出す
金茶色のブレザージャケット
膝小僧が覗く、褐色のチェック柄プリーツスカートとお揃いのタイ
叔母の要望通り大き目だが服に着られている感はない
そして黒のハイソックスは反則ではないか
中学校の制服に身を包んだ少女を前に
姪贔屓の叔母が「かわいい~」を連発するも少女は微妙な顔だ
普段、好みもあるが動き易いズボンを愛用している少女には
スカートはスカスカしてなんとも心許ないらしい
「ブレザー制服かわいい~」
「あたしの時はセーラー服だったのに~」
それはそれで賛否両論あるだろう
制服のプリーツスカートの裾を少しだけ捲り
「スパッツは~?」と、聞く叔母に「履いてもいいの?」と、返す少女
「はかないと見えちゃうよ~」と、呑気に答える叔母に
「なにが?」と、心中で突っ込む社長だったが
着替えを終えて寝室から出て来た制服姿の少女を見た瞬間から
言葉もなく唯唯、生気を失った目で見入っている
下手すると変質者だ
そう、視線に気付いた叔母は思ったが口にしない
同じく、視線に気付いた少女がカウチソファに座る社長に尋ねる
「変、ですか?」
咄嗟に首を左右に振る、社長
暫し、無言で見つめ合う二人の姿を見つめる
好奇心剥き出しの叔母の視線に気が付いた社長は咳払いする
叔母は目線を泳がし舌を出す
カウチソファから立ち上がり窓の方に顔を向けて社長が言う
「下に車、呼んどいた」
駆り出された運転手兼社員が待っている筈だ
「は~い」
返事をする叔母がスキップしながら居間を出て行く
叔母の後を追う少女が足を止め、振り返る
「昼御飯は、」
「俺が作る」
式後では時間的に無理だろうし、ゆっくりしてほしい
任せろ、叔母の希望で「オムレツ」だ
共同生活をするに当たって家事全般を少女に頼んだが
物理的に無理な場合は自分が担うという事でお伺いを立てた結果
少女の了承を得たので一応の、家事協力という形になった
「晩御飯は、」
「俺が、千の好きなモノを作る」
「じゃあ、買い物して来ます」
「ん」
無理に外食に誘う意味はない
今は叔母の言葉通り、いつかその日が来れば上上だ
「じゃあ、行って来ます」
「行ってらっしゃい」