八九三の女
[思い出]
「叔母さんと見る花火は最高っすー」
「だねだね~」
月見里君は純粋に、今日の思い出として
叔母と二人で嬉し恥ずかし花火観戦をしたかっただけで
小鳥遊君が妄想するような出来事は何もなかった
「変態は俺か?」
と、不安がる小鳥遊君を余所に一行はお土産店に向かう
遊園地の計らいで買い物に間に合うように
花火は閉園三十分前には終わる
社長にメッセージで報告した通り
お土産のチョコを吟味する少女の向かい側で
携帯電話のイヤホンジャックピアスをペアのキャラクターで揃える
月見里君と叔母の姿は傍から見ればラブラブの恋人同士だ
帰路の車内でも恋人同士然の会話をし続ける
月見里君と叔母に、小鳥遊君は祝福よりも鬱陶しさが湧いてくる
乗用車に乗り込んだ時点で
口数が少なくなった少女もこの状況に辟易しているのだろう
今じゃあ、全くの無言だ
一人、憤る小鳥遊君の肩になにかが触れる
固めで、重みのあるなにかに息を呑む
少女の黒緑の髪が小鳥遊君の頬を擽る
少女の引いては寄せる、寝息が間近で聞こえる
いつの間にか眠りについた少女の頭が、その肩に凭れ掛かっている
「また、どっか行きましょうー」
「だねだね~」
「勿論、四人でねー」
そうして、すっかり静かになった後部座席を振り返る
月見里君は目に映る光景に無言で携帯電話を構え出す
頭と頭をくっ付けて、寄り添い眠る少女と小鳥遊君
小鳥遊君の場合
眠っているのか意識が飛んだのか、定かではないが
経緯を知らない月見里君はにかっと笑い、撮影ボタンを押した