八九三の女
[運転手兼社員]
昔、裏街に小学校建設計画が上がった事がある
戸籍すら存在せず
義務教育すら受ける事が出来ない子ども達を取り上げた
週刊誌の記事が、世論の注目を浴びたのだ
だが風営法、旅館業法により実現は難しい
当初、裏街の子ども達を表街の学校に通学させる案が
妥当だと提示されていたが
裏街の住人は
裏街に生きるモノが裏街を出るべきではない
と、言い
表街の住人は
裏街に生きるモノは裏街を出て来るべきではない
と、言う意見が大多数だった
お互い、干渉せずに生きていく事を望んでいるのだ
だが、そんな状況に裏街に住む一部の親達が立ち上がる
裏街に生き裏街で死んでいく、そんな人生
裏街から抜け出せない人生は自分達だけで充分だと、訴える
表街との交流で傷付く事もあるかも知れない
それでも世界は無限に広がっている事を知って欲しい
それでも自分は無限に羽ばたいていける事を知って欲しい
子どもを持つ親として表街に住む一部の親達が共感
賛同したボランティア達も参加、積日の署名活動の結果
今日も裏街の子ども達は表街の学校に登校する
中学校近辺の時間貸駐車場に自車を駐車した後
社員は後部座席に座る叔母に、ルームミラー越しに話し掛けた
「終わるまで時間、潰すからよ」
「連絡先、教えてくれよ」
携帯電話片手に返事を待つ社員に叔母が揶揄う
「え~、一緒に来ないの~?」
叔母の言葉に
叔母の隣座席に座る少女に視線を移して、聞く
「だってよ?」
「一緒に行くか?」
にやり、と不敵な笑みを浮かべるも
即座に眉根を寄せる少女の反応に社員は馬鹿笑いする
社員の馬鹿笑いに釣られたのか
きゃはきゃは笑う叔母を横目に少女は顰めた眉根を指先で解す
どうも調子が狂う
叔母が二人いるみたいだ
叔母の事は好きだが
叔母は一人で充分だと心から思う