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八九三の女

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[絆創膏]



放課後、帰宅した少女は忙しい
買い物に行き晩御飯の支度の合間に宿題を片付ける

ダイニングテーブルに置き、漁るランドセルの中から
学習ドリルを取り出すと同時に一枚の学校プリントが付いてきた

中学校入学準備の案内だ
学校説明会とは別に、通学予定の中学校に赴き
制服の採寸、その他学用品や指定品の注文をしなければいけない

さてさて、どうしよう
借金のかたで居候している自分にも叔母にも金はない

救済処置を頼むか
将又、自分も借金をするか

それ以前に叔母は付き添いが出来る状況なのか
返済の進捗が分からない

そこまで考えて、考えても仕方ないと結論付け
「買い物に行こう」と、学校プリントを仕舞おうとした瞬間
背後から伸びてきた手に抜き取られる

突然の事に、少女は振り返ろうとするが
手の主が隙間なく立っているので無理だった

学校プリントを隅から隅まで眺めた社長の声が頭上から降ってくる

「叔母さんと一緒に行けばいい」
「金は心配するな」

相談する気はなかった
が、知った以上、こうなる事は当然の結果だともお互いに思う

「ありがとうございます」

お礼を言うも一向に離れる気配がしない
それどころか身を屈む、社長の顎が少女の肩を掠める

「昨日」

社長の息遣いを首筋で感じ、くすぐったさに身が竦む
一呼吸置いて言葉を続ける

「昨日、ヤった?」

「え?」

当然、小学生の少女には意味が通じず反射的に聞き返す

情けない話しだ
情けない話しだがなにも覚えていない
毎度の事だが少女を預かっている以上、自重するべきだった

確かに記憶はないが、痕跡もなかった
そして少女の反応を見る限り、少なくとも留まったらしい

取り合えず、寝室で寝ていた理由が知りたい
社長は小さく頷いて、気を取り直して質問を変える

「俺、昨日なにかヤった?」

「はい」

即答する少女の言葉に目を見張るも
振り返る髪先が鼻に触れた瞬間、弾かれたように身体を起こす
一歩下がり、自分を見つめる少女を見下ろす

少女は、顎下までのボブヘアに辛うじて隠れている
耳下近くの、首筋に貼ってある絆創膏をゆっくりと剥がした

そうして絆創膏下の痣を社長に確認させる
言葉もなく見入る、その顔に言う

「これだけ」

「ん?」

「これだけ、です」

感じた事のない熱さと痛みで思わず、声が出た
あの時は生きた心地もしなかった

次の展開に備えるも
小学生の自分には未知の世界で考えも及ばない

なのに、言いたい事だけ言って
さっさと寝入った社長の行動を思い出して少し、腹が立つ

なのに、腹を立てている自分にも意味が分からなくて余計に腹が立つ

多分、というか絶対、事の真相が知りたくて
いつもより早目に帰宅したんだろうが、迷惑に思う
お陰で色色と段取りが狂い始めている

晩御飯の支度の合間に遣る事は宿題じゃなくて風呂の支度だ

「買い物、行っていいですか?」

少女の不機嫌な様子が伝わったのか
社長は慌てて頷く

「行ってらっしゃい」

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫