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八九三の女

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[小鳥遊:たかなし君と月見里:やまなし君]



昼休み後の五時限目、体育の授業はキツイ
腹は適度に膨れ、昨夜の事で寝不足気味で欠伸が止まらない

少女は体調不良と嘘を付き保健室で仮眠を取りたかったが
体育教師に見学しよう、と笑顔で阻止された

バレてしまったのなら仕方ない
元元、嘘は得意じゃない

大人しく、同級生達が燥ぐ球技授業を見学する

どうでもいいが
何故、男子はあんなにも球技が好きなんだろうか?

体育館の床に体育座りをしようと身を屈めた瞬間
足元にバスケットボールが転がってきた

追い掛けて、少女の目の前で立ち止まった男子生徒に
拾い上げたバスケットボールを差し出す

「はい」

受け取りながら男子生徒(以下、小鳥遊君)が聞く

「部田、見学なのか?」

小さく頷く少女に、小鳥遊君は「そっか」と、呟いて走り去る
そんな彼の後ろ姿を目で追いながら思う

裏街には通う学校がない
裏街の就学児童、就学生徒達は表街の学校に通う

そして裏街の自分に話し掛ける、表街の生徒はいない
かといって、裏街の生徒達で群れる事もない

それは表街の住人に要らぬ
恐怖心や懐疑心を抱かせる結果になるからだ

だから、ここでは少女は一人ぼっちだ
それ故の社長の「休まず学校に通え」なのだ

裏街で生きようが表街で生きようが、無知では駄目だ

そんな自分に話し掛ける、表街の男子生徒がいる

最高学年になり、同じ組になったのを切っ掛けに
挨拶から始まり徐徐に会話を交わす回数が増えてきた

去る者は追わず来る者は拒まず

が、裏街の住人のルールだ

本音を言えば
自分に話し掛けてくれる彼には感謝している
集団生活に於いてペア行動、グループ行動が多多あるからだ

そんな時、可能な限り小鳥遊君は自分と組む

小鳥遊君には月見里君という、幼馴染がいる
幼稚園からの「なしなし」コンビで腐れ縁の仲良しだと聞いた

小鳥遊君が自分と組んだ後
残された月見里君は気にした風もなく
他の男子生徒と組むのだが、少し申し訳ないと思う

喩え、裏街の住人である自分への好奇心からでも
気遣ってくれるのは有難い

小走りで戻って来た小鳥遊君に
ワンバウンドでパスされたバスケットボールを受け取り
件の月見里君が「待ってました!」と、ばかりに話し掛ける

「なになにー?」
「部田に「女の子の日」って聞いたのー?」

涼しい顔で笑うと華麗にスリーポイントシュートを決める

二重の意味で「なんなんだ?こいつ」と、思いながら
思春期真っ只中の小鳥遊君は返事に詰まる

思えば、四年生の時
保健体育の性教育の授業をどぎまぎしながら受ける自分を余所に
興味なく眺めていた月見里君が隣に座っていた

そんな彼には七歳、歳の離れた姉がいる
他意はないが

「な訳ねえだろ、世間話だよ」

「なに、世間話って主婦なのー?」

意味不明、とでも言いたげな顔で突っ込む月見里君に
小鳥遊君は何も言えずに口を閉じる

他愛ない会話でも自分は部田に話し掛けたかった

つか、お前の言う通りの会話してたら
速攻で嫌われるだろうが
(つーか絶対、お前もそんな会話しねえだろ!)

軟派思考の彼には理解出来ないだろうが
女子に免疫がなく、奥手な自分にはこれが限界なのだ

「姉ちゃんが言ってたよ?」
「ブサ面だろーが、貧乏男子だろーが」
「優柔不断が一番、ないってよー」

勿論、嘘も方便だ

姉の経験豊富な恋愛談を盾に
月見里君はない事ない事吹き込んで、惑わしてくる
案の定、小鳥遊君は騙される

「マジか?!」

「マジー」

そして小鳥遊君が出した答えは
「卒業式の日に告る!」と、いうものだった

卒業式を選んだ理由は
告った直ぐ後、学校で顔を会わせるのは気まずいし
なんなら中学校入学式まで返事がなくても全然、構わないし

シチュエーションも大事にしたい、という思惑もある

バスケットコートの片隅で
小鳥遊君の決意表明を聞き、月見里君は拍手した

「うん、応援してるー」

もうずっと応援してるんだが一向に進展する気配のない
親友の恋の行方に変な笑いが込み上げてくる

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫