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Cuttysark 『精霊』前/直後。

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 ブレスレットのように腕に巻きつけて、ただ手を下ろしているだけの状態では肌に触れないようにする。歩行時の体の揺れにあわせて素肌に触れるように、もしくはいざと言うときには素肌に触れた状態に固定できるようにと調節と細工をする。
 石が肌に触れているときは歌も全く聞こえないかうっすら聞こえるか程度なのだが、身から離すと思ったよりもはっきりと聞こえてくることに驚いた。その時はちょっと確認程度に試しただけなのだが、何かに操られそうな気配を感じて慌てて石を握りこんだ。
 そうやって確認に行こうとしたのだが、ガイボルグの視線があってなかなか抜け出せなかった。
(ホントにガイは心配性だなぁ)
 いつもはありがたいのだが、こう言う時はちょっと厄介だ。
 今回カティサークは寝室を第一部隊隊長と二人の部屋にしてもらっているのだが、部屋を出るとガイボルグがいたり、もしくは陰から視線を感じたり。
 仕方が無いので最後は魔法で一瞬気を失ってもらって(本人は一瞬睡魔に襲われて舟をこいでしまったくらいにしか思わないだろう)その隙に部屋を抜け出した。
 ただ、その後も駐屯地を出ようとするがなかなか見張りが厳重で出て行くことができない。この中を毎日のように失踪者がいると思うと謎でならなかった。
 そこで準備してきたもう一つの道具を取り出す。
 粘土状で皮脂と熱で溶けるもので、元はいたずらに使うおもちゃということだった。
 コレを肌と石の間に適量盛る。
 気温にもよるが、あらかじめ知らべておいた平均値からみて十数分といった量を塗りつけて厚さを調節する。
 そして、石をセットしたあと息を一つついて指を離した。

”ラ…ララ……ラ……♪”

 言葉ではなかったが歌が聞こえてくる。
 昼間耳鳴りのように聞いたよりもはっきりと聞こえる。

”ルルル…ル…ル…ララ……♪”

 頭の中を反射して回るように歌が巡る。
 確かにこんなものが聞こえたのでは眠れやしない。
 自分だったらこんなものが数日続けば参ってしまって仕方ないだろう。
 ただし、そんなことは表に出せない。
 今回失踪した者はそうやって疲れがたまってこの力に対抗するような力がなくなってきたところで順番に消えているのだろうか?
 そんなことを考えてはいたが、今回カティサークは操られたいと思っていたので、流れてくる歌と思考力を奪おうとする力に抗おうとせずに流れるままに身を任せた。
 時間制限もあるので早いほうがいい。
 しかし、物陰で周囲を観察するもかすんで行く視界のなかで見回りが厳しいのだけは分かった。



「!」
 気づくと森の入り口に立っていた。
 歌はかすか耳の奥に聞こえるだけではっきりとは聞こえない。
 『石』を確かめると素肌についていた。
 反対側の手でギュッと押し付けても、歌はかすかに聞こえる。
 こちらが発生源ということなのだろうか。
 森の入り口らしいことが分かるのは遠くに町の明かりを確認できるから。正確には町というよりも駐屯地だろう。
 こんな地方の町が深夜まで煌々と明かりをともすなんてことは祭りの時期以外そうない。
 とりあえず此処まできたが、この状態で自分以外の者が駐屯地を抜け出したのか調べることはほぼ不可能だった。
 物理的な確認をするには暗すぎるし明かりがない。
 魔法で確認しようとすると『石』を肌から離さなければならない。
 少し此処で待機をして、何も起こらなければ帰ることにした。
 抜け出した方法も分からないが、当然帰るのも困ることに今更気づいて自分にしては浅はかだったと後悔もよぎったり。
「どうやって帰ろうかなぁ……」
 警備が厳重なのはよく分っている。故に駐屯地から抜け出た方法が思いつかない。
「…手引き者がいるのか?」
 物陰に隠れてあたりに気を張りながらも考えるが、微かに聞こえる歌で集中力が途切れそうだ。早く此処から去った方がいいとは思うが、魔法を使用しない方法で戻る戻り方が思いつかない。
 駐屯地では出てくるときのように(ガイボルグに魔法を使った時のように)極短時間の『石』の取り外しは可能だったが、此処に来て精神的疲労も大分たまっていると思うと駐屯地近くでも『石』を外せばそれが一瞬でも大きく影響されてしまうのではないかと懸念があった。
 過度の魔法使用も避けたい。
「成るようになれ、しかないか…」
 森を離れて駐屯地近くに行く方法だけでも考えなければと思考をめぐらす。
 この森にいても巡回されているのだから見つかる前に去りたい。森付近の巡回ルートは各部隊ごとに異なるからポイントは決まっていても正確なルートは分らない。
 ・・・そもそもガイボルグの見張りのせいで行動開始時間が遅くなってしまった。時間もそうない。ここでするこれ以上できることもないし、少しは休まないと今後の行動に影響が出てしまうかもしれない。
 そうやって暫し過ごし、歌が耳鳴りにもなってきて危ないと感じ始めたので去ろうとしたところ、異変が生じた。
 人の気配が複数したのだ。
 複数といっても数人分。
 見回りではないだろう。
 「こんな場所にこんな時間に誰が」と、相手の気配が分るということは相手も此方を察知できる範囲だから下手に動かない方が良いという判断が頭の中でされる。
 そっと息を潜めて気配の方向を定める。
 いつもならもっとすばやく行なえるはずなのに、精神的疲労が思った以上に蓄積され始めているようで集中力が持続しない。これでは隠れていてもミスを犯してしまいそうだとヒヤリとした。
 何とか相手の位置と大体の人数を把握するも思ったよりも近くに寄ってきて相手の姿を見ることも出来ずにひたすら身を隠すことに集中した。
「………××××?」
 声がポソポソと聞こえてくる。
 はっきりとは聞こえない。
 男だということだけは分った。
「……だから…には……が……」
 聞き覚えのない声だが、言葉は自国のものだと分った。
 今回の相手の国も基本言語は同じなのだが、広大な森を挟んでいるだけあって訛りを感じる。聞き取りづらいほど酷いものではないから会話は安易な程度の差だ。
「……×××は効果を表していますよ。何が嘘で、何が本当か見極めることも出来ない混乱は更に悪化すると思われます」
 それはまさに今の自分達の状態だ。
 しかし単語が一部聞き取れない。
 耳慣れない言葉なのだろう。
 脳が瞬時にアバウトにでも変換が出来ない。
「今日は獲物がかからなかったようだが確かに来たのか?」
「発つ姿はみました。巡回に見つかって保護されましたかね?」
 その言葉に眉をひそめる。
 それはきっと自分のことだろう。
「あの呪いに飲まれたものは他者から一切認識されなくなる。今までだって見つからなかっただろう」
 ちょっと不快に思っているような声…ということは、此方の声の主がこの『歌』を仕掛けた者かその身内だということだろう。
 それにしても…高度でいやらしい魔法だ。
「少々危険ですが探して始末しますか?」
 笑いを含んだ声。
「私はそれでかまわないが、意識を取り戻している可能性もあるな」
「それは頼りないですね」