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Cuttysark 『精霊』前/直後。

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 魔法の効果を拡散消滅させる力がある石なのだ。
 そしてレイラが物を何所からか持って来て紐を通し、さらに加工を施すと(特殊な液体に浸していた)、6人の隊員を呼び寄せて説明と共に配った。
「実はカティちゃんの荷物に入れてたのよねぇ」
 アハハと笑うのを聞いて、もしかしてそれで自分は助かっていたのかもしれないともホッと息をついた。

 その日の夜、カティサークはあることを試してみた。
 動けば肌に触れるような状態で、しかし肌に付かないように例のネックレスを身に付けて、寝台に入ったのだ。
 近くで寝息が聞こえてきても(テントよりはしっかりした仮設建物で、数が無いから部隊長といえども一人部屋は得られない)、自分が試そうとしていることに対する緊張からかなかなか眠れなかった。
 それでも早く寝なければとしているうちにやっと眠気がやってきて……
”…♪……♪♪……”
 言葉を歌っているというよりハミングのようなものが聞こえ始めた。
 ラララと歌っているようでもあり、マママと発声練習のように歌っているようでもあり…良く聞けば……
「!」
 気が付くと立ち上がっている自分がいた。
 歌は聞こえない。
 胸元に触れると、用意したとおりにペンダントヘッドが素肌に触れていた。
「…うぅ…ぅ……」
 あわせて同室内で唸り声が聞こえたが、それも消えた。
 心配になって覗くと、眠っていながらも寄せていた眉をゆっくりと開いていった。
  

 
 戦時に向けての緊張は高まっているようだ。
 とうとういくつかの巡回小隊が戦闘行為を行ったと連絡があった。
 しかも相手は魔法ばかり使用して殆ど手も出なかったという。
 幸い死者は出なかったが重傷者は出た。
 本格的になる前に抑えように、司令から各部隊再編を通達された。
 カティサークの部隊は女性が多く戦闘要員とは言えないものもいるため、後方に下がるよう指示がされた。ほかに下がるように言われた部隊がいくつか。そんな中、魔法部隊をもたないエバーリーフは、エバーリーフ部隊ごと下がるように指示されたと聞いて驚いた。
 一部の者は当然だと思っているらしいが、カティサークと同じように敵の策略かもしれないと思っているものも多いはずだ。
 素直に下げたのか、裏を考えてあるのかは味方にさえ伝えられない。
「魔法、魔法、魔法ってコレだけ『魔法』ってものに踊らされるなんて…」
 愚痴をこぼしながら、再編成の件で自分の所属する町の隊長会議に臨む。
 隊長会議に参加するのは、第一〜第五部隊隊長の五人。総隊長が第五部隊隊長をかねる。
「今回、巡回時と同様に第三、第四部隊より、第一、第二部隊に魔法を使用できる者を割り振りたいと思うが両隊長はそれでいいかね?」
 思ったとおりの言葉に二人はうなづくだけだった。
 カティサークの隣で第三部隊隊長代理も『分かってました』と表情を現す。
「人選に関しては両隊長に任せるが…」
 視線がカティサークを射る。
「もちろん私は引き続き第一部隊に助力したいと思います」
 ため息を堂々とついたところで、誰もとがめなかった。

「第一部隊には俺を含めて4名、第二部隊には3名補充の要請があった。合計7名だが、とりあえず志願者いるか?」
 とは言え、基本は今回出向組みだった者から選ぶつもりだった。
 必要とする力が変わらないからだ。
 ただ、索敵より攻撃や守備につかえる魔法を持つ者の方を優先したい。
 かつ男性優先のつもりだった。
「「はい、はい、はい!」」
 まず元気に手を上げたのは……レイラと他女性隊員だった。手を上げたメンバーを見れば思ったよりも多く6名を越えている。
「レイラには後方で第四部隊を任せようと思ってたんだが…」
「いいえ、私は行くわよ!隊長代理なんてキルスタンでいいじゃない!」
 『で良いじゃない』という言い方は酷いと思ったが、確かにキルスタンは適材だな、とは思った。
 魔法は使用できるが力は強くなく、しかし頭の回転が速く人をまとめるのが上手い。
 みればキルスタンも挙手していたが、今回の要請内容を考えると順番的にいって派遣組にはならないだろう。
「異論が無ければ、俺はそれでいいけど?」
「異論なんてないわよね?!」
 カティサークの言葉に乗ってレイラが詰め寄ろうとする、キルスタンはそんなレイラを挙手していた手であしらって下ろす。
「カティサークがそれを望むなら」
 キルスタンも他の多くの隊員に漏れず、カティサークを慕って(本人は「その言葉は正しくない」と言う)入隊した者の一人だった。以前の職業は武闘派司書…なんのことやら。今でも図書館に入り浸ったり書物を漁るのが好きらしい。
 後から伝えよう、もしくは考えようと思っていたがついでに第四部隊仮隊長(隊長代理)も決まったので、残りの人選もさっさと終えることができた。
 ついでに例の石(ペンダント)も派遣組に配りなおす。
「明日移動になるが、気はいつでも引き締めておくように」
 告げてから隊員をそれぞれ今までどおりの仕事に戻し、選出メンバーだけ連れて先ず第二部隊に行き三人置いて、残りで第一部隊に向かった。
「カティサーク君」
 第一部隊隊長に挨拶しようとしたところ、総隊長兼任第五部隊隊長が来ていて二人で何やら密談らしかった。カティサークを見つけると、仕草でカティサークだけ来るように示し、既に気心の知れた第一部隊隊員会話を始めていた三人をそのまま置いて二人の元による。
「『調査隊』メンバー失踪殺害の件はきいていると思うが、どうやらメンバーの中でもある程度以上魔法が使えるものだけが被害にあっているらしい。最近、一部魔法使用可能者が頭痛を訴えることも関係するかもしれないとか…」
「詳しくは司令がメンバーに直接伝えるそうだから行ってきなさい」
 ちなみに二人はカティサークが調査隊メンバーであることを知っている。というか、この部隊においてはこの二人しか知らない。この部隊内に他にも調査隊メンバーがいるかも、この二人は知っているのだろう。第一部隊隊長は、総隊長の補佐的なことも行っている。


「エタニティ・フォレストのカティサーク参りました」
 通されると、丁度他の者が出て行くところだった。
 同じ用件で来ていたのか、違う件だったのかは分からない。
「今までの報告をまとめたものを書式に示したから読みなさい」
 手渡されたのは既に幾人もが手に取ったと分かる状態の一冊のレポートで、カティサークは音さえも立てないようにそれを読んでいった。
 口頭で伝えれば何所に聞き耳があるか分からないということなのだろう。
 新しい情報も有れば、考えていたこともあったし、カティサークが得た情報も入っていた。
 どこかに内通者がいるのではなくて、或る町の部隊自体が繋がっているのではないかというのは初めてみたが、歌の件は思ったとおりだった。
 どうやって『調査隊』メンバーだけを標的としているのかは相変わらずわからなかったのだが……
「…?」
 返そうと司令を見て違和感を感じた。
「どうかしたか?」
 司令の目に、何か浮かんで見えた気がしたのだが……
「いえ、ありがとうございました」