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Cuttysark 『精霊』前/直後。

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 必要なことさえも口にはしないし、実はちょっと運動神経が鈍いのだが(それが一部女子の間では「かわいい」といわれるらしい)、報告書を書かせると部隊内で一番分量を書くだ。かといって内容量が多いだけで文章も綺麗にまとまって分かり易い。またレイラ同様観察眼に優れている。しかも、レイラとカティサークは他部隊に出向しているが、この少年ハースは第四部隊隊員として残って活動していた。魔力が無いわけではなく、ハースの持つ魔法の力は今回の件で他隊に出向しても役に立つと思われなかったのだ。
 能力としてはちょっとした占いというか、予知を行うことができる。もしくは、強力な破壊魔法の素質を持つがコントロールが利かない。
 第四部隊に残したのは、これ以外にも情報整理が上手いから。
 どうやってこういう者たちを集めたかと問われれば、カティサークとしては「いつのまにか」としか言いようがないのだが、他隊隊長がカティサークを第四部隊の隊長に推した理由にそれらも含まれていた。カティサーク自身は知らないことなのだ。
「…というわけで、どんな情報でもいつもどおりに集めておいてくれ」
 二人に説明し、レイラは「はぁ〜い」といつもどおりやる気のなさそうな返答を、ハースは少し嬉しそうにウンウンとうなづいた。
 ハースはカティサークのことを兄のように慕ってこの部隊に所属することを希望した程だからそのカティサーク直々に特殊な仕事を任されて嬉しいのだろう。
 そんなハースを見るとカティサークもハースを歳の離れた弟のようにかわいいとおもう。
「いつもしている仕事はそのまま続けて、その上での追加だから大変だと思うけれど…」
「いつもやっていることと変わらないから別に増えやしないわよ」
 レイラが笑い、ハースもまたうなづく。
 優秀な仲間がいると感謝したくなる。
「本当にありがとう」
 カティサークが集める情報よりもこの二人が得てくる情報のほうが多いだろう。
 あとは…カティサーク自身の出向先であるガイボルグに告げるかどうかか。
 

「内通者がいるかもしれないって噂知ってるか?」
 そうガイボルグに言われた瞬間に『馬鹿、馬鹿、馬鹿!』とカティサークが心中三回も叫んだことも知らずにガイボルグは普通の声量で続ける。
 ちなみにガイボルグの声は平常でも大きい。
「お前には辛い話かもしれないけれど、今回はソレに対する調査隊も編成されたというし前みたいなことは無いといいな」
 それはガイボルグの優しさなのだろう。
 しかし、なんとなく伝えづらくなった。
「そうだな、同じことは繰り返したくないね。調査隊にはがんばってもらいたいものだよ」
 ガイボルグは以前の出来事の時のカティサークの状態をよく知っている。
 自分でも思い出すと気持ちが沈みこむ。
 心身ともに受けたダメージは大きかった。
 ただ、そこで第四部隊を解散するかもしれないという噂が立った時にその沈みこんだ気持ちをバネに懸命に部隊の存続を訴えたのはカティサークが一番だった。
 第三部隊がもし解散させられていたら、今頃この警備隊自体のありようが大分違ったものになっていただろう。第一、第二、第三を残し第四は第三に吸収する予定だった。つまり、警備隊が置かれていた町や住民との繋がりについては重要視されなくなるところだった。
 カティサークは第四部隊の存在があるから、警備隊自体があの町に溶け込み住民に受け入れられたものになっていると今でも自負している。
 ただの便利屋と言われることがあっても、いいと思っているのはこの気持ちがあるからだろう。
 今でも時々夢に見る。
 カティサークが所属していた旧第四部隊が急襲され時のこと。
 他の部隊でも同じようなことがおこっていた。
 カティサークは自らも生死を彷徨いながら他部隊に情報を伝えるように仲間を守りつつ逃がし、隊長が斬られる瞬間も目にしていた。
 恐ろしいのは仲間が命を奪われたことばかりではない。
 自らも人を殺めた。
 敵とはいえ、人を殺したのだ。
 剣を振るい人を斬った。
 その感触は恐ろしいほどに忘れがたい。
 そのまま散開逃走しようとしたが出血が酷く意識を手放した。
 あのまま命を落としていればあの後の苦しみを味わうことは無かっただろうとも幾度も思った。
 今でもそういう夢を見るということはまだ心の片隅にその思いが残っているのだろう。
 しかし今は生きていて良かったという思いも強い。
 過去よりも今と未来を生きたいという気持ちにさせてくれる仲間に出会ったし、既に思い出にもそういったものが蓄積されつつある。
 そんな様々な思いがある町だから、カティサークはその町『エタニティ・フォレスト』を愛している。
 


「……?」
 見回り中、妙な音を聴いた気がして辺りを見回す。
 夜の見廻り中だった。
 この場所に夜来るのは初めてだ。
「どうした?」
 ガイボルグが声をかけてくるが、他の者もカティサークの様子は気づいていた。
 その様子を見回すにちゃんと皆気を張って警備にあたっている。
「歌が聞こえた気がしたんだけど…」
 部隊の人員を見える範囲で見渡す。
 女声だったがこの小隊に女性はいない。
 もともと第一部隊に女性は所属していない。
 訓練はされているが職業軍人というほどではないので、女性がいると気になるという隊員が多いのだ。第一部隊はほぼ体育会系男の集まりだからむさ苦しいくらいが集中できるという。…女性隊員要望の声がないことも無いのだが、諸事情を考慮して必要な時に第二部隊以降より借りてくる。(今回の場合のように)
 実は今回のガイボルグの部隊は、ガイボルグが使い易い人物というよりもカティサークを快く思っているメンバーが選出されていた。確かにガイボルグ自身灰汁が強いためガイボルグの部下として働ける人物は限られるのだが、故に自然とガイボルグと同じようにカティサークに好意を持つ者が多かった。第四部隊隊長でさえなければ第一部隊に来るように誘うのに、というのが本音だろう。
 いや、或る意味危ないから第四部隊隊長でよかったとも言えるだろうか。
 もちろんカティサーク自身は全て知らない。
「こんな時に歌を歌うような奴はいないぞ?」
「ソレは分かってる。どのみち女性の声で歌を歌えるような特技をもった者もいないだろ?」
 カティサークに好意を寄せてくれているだけあってカティサーク自身面識のある者ばかりで、この隊に配属された時点でちょっとほっとしたくらいだった。それは隊員たちにも伝わったようで、さらに喜ばれた。
「女の声だったのか?」
「…のように聞こえた」
 カティサークの言葉を聞き逃さないように聞き耳を立て、その内容に眉をしかめつつ気を引き締める。
 これがことの始まりだった。 



 数日後。
 所属する町の警備隊第四部隊隊長として報告書を提出に行くと、嫌な話を聞かされた。
 他の町の部隊から選出された内部調査隊メンバーが姿を消したというのだ。
 彼が調査隊メンバーであることを知っていたのは極限られた人物だけで、実のところカティサークも何所の誰が調査隊メンバーなのか、そもそも何人いるのか知らない。