Cuttysark 『精霊』前/直後。
「場所によっては戦闘を仕掛けてもいいと思うけど、とりあえず其処まで付いてくるか様子見だね」
「…そんなに強いのか?」
もともと戦闘部隊だけあって好戦的な思考は拭えない。
だからこそカティサークもガイボルグにしか伝えない。
「強いね。少なくとも魔法はとてもかなわない…もしくは魔法だけでとても敵わない」
「そうか……」
カティサークにそういわれては従わざるをえないのだろう。
内心湧き上がってくる衝動を抑えようと、深く息を吸う。
そんな様をカティサークは笑って見た。
「この小隊の隊長はお前なんだよ?がんばれよ」
隊員についての責任を全て負う立場、ということ。
無駄な危険には晒せない。
「何話してるんですか?」
傍にやってきた隊員が不意に声をかけてくる。
「!」
聞かれたか、とガイボルグが身を硬くするがさらにカティサークは笑う。
「今日の夕飯、ウチの部隊の女の子が当番なんだけど覚悟しておいた方がいいよって」
「へ、そうなんですか?」
「うん、男より『男らしい』料理するから」
この話は一瞬で小隊に広まった。
宿営地に帰りガイボルグに報告書を書かせつつ、自分の部隊の状況も聞いて回る。
カティサークの部隊の報告書は部隊の仕事自体と同様に全て部下に任せてあった。提出前に確認はするが添削までは行うつもりは無い。
ガイボルグの書いたものは添削も必要かもしれないと思いつつ。
ちなみに滞在は町の外にテントを張って各町の警備隊ごとにまとまって宿営している。
町ではコレだけの人数を宿泊させる場所が無いためと、いざと言うとき迅速に行動を行うため、さらに外から町を守る目的もあった。
それでも一応、数件宿屋をキープしてある。
けが人などが出たときに医療施設では足りなくなる可能性もあるし、その他病人が出たときのためとして。
カティサークの部下に女性が多い割には不満が殆ど出なかったのは街中での仕事ばかりでこういった状況が初めてで、不謹慎ながら「ちょっとワクワクするね」なんて感想も出たりするからだろう。
いざと言うときは真っ先に後方に下がれるような配置にもなっている。
「…レイラの方も異常あったのか?」
第四部隊の本日の仕事内容の報告書を確認しつつ、自分と同じように他部隊に派遣されていた者の話もサラリと聞く。
第四部隊の仕事は主に渉外。
他の町の警備隊との渉外や、町の人との渉外を行う。
あわせて噂も集めてきたりと…天然で行える者が幾人か居るために大分楽だった。
「あったわよぉ。昨日は人の歩行跡があったって聞いたんだけど、今日は綺麗になくなってたのよ。変わりに魔法を使用した跡を感じたから魔法で消したのかもしれないわねぇ」
「ウチの方も魔法使用跡がはっきりありましたよ。昨日もあったって報告は一応あったんですが…」
どの話を聞いても、『魔法がらみ』が圧倒的に多かった。
そして報告書のなかに面白い記述も見つける。
『或る町の警備隊は殆ど魔法の使える者が居ない』とか。
そうなると、その部隊が回った箇所は魔法感知はほぼ不可だ。
「コレを知られたら穴になるなぁ…」
やはり報告書には手を加えず提出しようと決める。
その他もざっくり話を聞き報告書を見るが取り立てて明言する事も無いことを確認した程度だった。
「あぁその話ねぇ…」
第四部隊の報告書を出しに行こうと歩いているところで、丁度同じ状況だったらしい第二部隊の隊長代理と一緒になった。
今回第二部隊と第三部隊、それと総隊長が来ていない。
大雑把に分けて、第一部隊が前線、第二部隊が後方支援、第三部隊が情報収集、救援、第四部隊が渉外、その他形式上は第七部隊まで有ることになっているが残り三つはその時々によって形成される特殊部隊で、滅多に第七までいたることは無い。噂としては隊長直属として常に影に存在するとも言われるが。それに現状でも対外的に分類されているところで実際の仕事内容の分類は曖昧だ。
「私もついさっき小耳に挟んだのですが、アソコの総隊長がアッチの総隊長と仲良くないとかでわざと報告して無かったとか。そもそも元々存在していた魔法使いの雇用を縮小して消滅させちゃったのもアッチの隊長さんが魔法使いを重宝することに反抗心を抱いたからだとか。そんな噂があるようですよ」
名前を出すのをはばかっているようだが、アソコというのは魔法使いの居ない町”エバーリーフ”、アッチというのは魔法使い専門部隊をもつ”シューロック”という名前の町のことだ。
それぞれの町の部隊編成に関しては各部隊の総隊長に一任されている。そもそも所属兵の居る”警備隊”を編成しない『総隊長』も居るらしい。
編成しないのは本当に必要ない地域で、国境から徒歩数日〜十数日圏内の主要な町には大体存在する。
カティサークの居る町は主要な町でもなく地方の静かな場所だが、今でこそ穏やかな町でも過去の歴史による理由で存在するとの事を聞いたことがあった。もともとカティサークはその町の出身でもないので話を聞いただけだ。
「おかしな事だらけですね」
思いつくことを上げるのは簡単だが、真実を調べるのは大変そうだ。
とりあえず誰がどう動くことになるのかの判断は上に任せようと考える。
自分は動きたいくないと胸の片隅で思いつつ。
「とりあえず、アソコは白だと思いますよね」
「裏の裏ってこともあるかも知れませんよ」
そうは言ったがカティサークもエバーリーフは白だと思っていた。
数日後、恐れていた指令がカティサークに下った。
例の噂から始まり、幾つか情報だけが錯綜しそうな気配に調査機関を設置することになったのだ。その調査機関は秘密裏の存在で今回ここに集まったさまざまな町の部隊全てを統括する総指令官直属の機関となるとのことだった。故に様々な部隊から幾人かが選ばれた。
何処からかカティサークはその職に召喚された。
もちろんこれまでおこなってきた仕事はそのまま続行。
幾人か信頼のおける人員を使っても良いとの事だったが、その人選も困る所だった。
カティサーク的には、それぞれ既に仕事があるから。
「面倒だからイヤだったんだよナァ…」
とはいえ予感もしていた。
部隊長だからそれなりに上の情報は入り指令官と顔を会わせるのも不自然ではない。他隊に出向いてそちらの仕事をしるくらいだから身動きもとりやすい。渉外担当部署隊長なので情報収集も上手く、剣士だが魔法についての知識もあって使用も可。
或る意味今回の任務について理想的な人物になるのだろうことは安易に想像が付いた。
だからこそ、目立たないようにやってきたのに観ている人は見ているということなのだろうか。
「しかたないか…」
仕事内容を細々伝えられた後、自分の隊に戻って先ずレイラを呼ぶ。
口が軽いと思われているレイラだが、実はそんなことも無く必要な時には自然と口をつぐむ。
そもそもカティサークの行動に少しでもおかしい点があれば直ぐに見つけてしまうし、逆に他者におかしいところを見つけてもソレが直ぐに分かる。…やはりレイラは相当有能だとおもうのだ。
そしてもう一人レイラと正反対で普段から無口な少年を呼んだ。
無口で、しかも影が薄い。
作品名:Cuttysark 『精霊』前/直後。 作家名:吉 朋