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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第二部)(19~27)(完)

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第二十三話 君の元へ









うちの会社に共同経営を持ち掛けてくれた会社の令嬢、華蓮さんからは、「あなたが勇気を出して縁談をぶち壊して、自分で会社を立て直して見せるしか道はない」と励まされた。それは意外なことだったけど、今方法があるとするなら、確かにそれしかない。でも僕は、こんな状況で美鈴さんのことを両親にはとても言えないと思った。むしろ、今が一番引き離されやすい状態なはずだ。

僕はまず、華蓮さんが自分のご両親に「次のお話でまたもう少し話してから結婚のことを考えたい」と言ってくれている間に、銀行に融資をもう一度頼めないかと思った。父さんをそれとなく説得し、今度は僕と父さんで、銀行を訪問した。

これは失敗した。もちろん、現状が数字として変わらなければ、彼らはうんとは言ってくれない人たちだ。でも僕はその席で出し抜けに、「次には事業の見直しの案を提出する」と銀行側の役員に告げた。僕の隣に居た父さんは、驚いて僕に目を見張っていた。


銀行との話が済んだ後で、夕刻に帰りの車に乗り込んでから、父さんはまず僕にこう聞いてきた。

「どういうつもりだ?馨」

「さっきの話ですか」

「そうだ。急に見直し案のことをお前は口にした。でもそんなものはない」

僕は父さんが怒り出さないように、慎重な口調で話を切り出した。話を聴きながら車を運転する父さんは前を見ていたけど、たまに僕の方を向いて、驚きや、苛立ちを露わにした。

「僕にだって考えくらいあります。それをずっと組み立てていたんですよ。だから父さん。どうか、現社長であるあなたにも検討して頂いて、会議でも発表させて下さい。もちろん、僕一人では不十分でしょうから、発表前に父さんに見て頂いて、可能なものはもっと上手いやり方がないか、不可能であると僕が知らなければ、それを教えてください。お願いします」

父さんは動揺して、迷っているようだった。それから、父さんの目が前方を走っている車のライトを照り返してちらちらと光る。迷いながらも、父さんは何かに縋りつくように前を見ていた。

「それは…自主再建をするということか…?」

「そうです。まずは、僕に一度それができないか、やらせて下さい」

僕ははっきりと、でも攻撃的に聴こえないように、苦心して言った。父さんは息子の急な言い分に困っていたようだったが、しばらくしてようやく、「そこまで言うなら、プロジェクトを一度組んでみよう。私だけでは不足かもしれない。他にも人を選ぶから、三日は待ってくれ…」と、僕を見ずに言っていた。

僕は、それまで父さんがまるきり子供扱いしていた僕にまで頼りたくなるほど、責任と窮地に追い詰められていたことを知り、それから、ひとまずは自分の言い分が初めて父親に受け入れられたことに、安堵した。





それから一週間してプロジェクトチームが集まり、父さんを中心とはしながらも、僕の考えた再建計画について、様々な意見交換がされた。まずは会社の足枷となっている部分を細かく調べることから始めて、結果として、利益の出ていない子会社を体力のあるほかの企業に売却すること、それから工場を閉鎖すること、そのほかのあらゆるコストカットに、債務返済の計画、等々…。


一カ月後、すべてが一つの文書にまとまった時、僕たちは大きな達成感を感じていた。


「社長!これができれば、まずは大丈夫ですよ!」

「そうか。そうだといいが…」

「とにかく、これを見て銀行側がどう言うか…ですね」

僕がそう確認すると、父さんは「どうかはわからないが、そうだな」とは言ったけど、その表情は、プロジェクトを練り始める前までの切羽詰まった頼りなさが消え、晴れやかに見えた。




成功だった。銀行に出向いてなるべく丁寧に、父さんの口から再建計画の内訳を相手に話してみせると、「これなら現実的と言えますね。でも急なお話ですから、こちらも会議に掛けなきゃなりません。次回のお越しまでにまとめておきますので、今回はこのへんで」との返事だった。少々面倒そうではあったけど、納得して頷いてもらえたので、僕たちは頭を下げ、会社に帰った。


「まさかお前にこれほどの腕があったとはな」

「父さんと、他の皆さんが優秀だったんですよ。僕はまだ半分くらい部外者のままだったので、もしかしたらそれで、客観視できたのかもしれません」

「礼を言う。馨。これならもしかすると、自力で巻き返せるかもしれない」

「僕も、自由にやらせて頂けたことを感謝しています」





それから銀行からの資金供給はよどみなく進むようになって、会社は動き始めた。

だけど、業績が良くなったわけではなかったのだ。

赤字は減るには減ったが、黒字化はそれ以上に難しく、だんだんとまた僕たちは迷い込んでいった。その間に、またあの話が息を吹き返す。