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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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 ナンバープレートを差し替えるのは、数時間後。家からゴルフを出して、現場近くで交換する。全員が合流したら、覆面を被ったまま最寄りの高速道路の入口を突破して、本線に合流する。橋野が段取りを頭の中で復唱していると、田島が言った。
「これ、もしバックで抜けられたら、ヤバイすね。坂間が止められへんかったら」
 地図を見る目は鋭く、橋野にはどうやったらそんな目つきができるのか、想像もつかなかった。中村は小さくうなずきながら、言った。
「バイクを当てても止まらんかったら、坂間は現場に残って、轢き逃げに遭ったって言え。後はトラックとゴルフで解散や。あのバイクは、俺がバイトで貸した奴やって言うてくれて構わん。残念やが、相手の方が一枚上手やったってことになるな」
 坂間が姿勢を正した。自分がバイクを上手く押し込めるか、成否はそれにかかっている。田島が言った。
「そん時は、トラックで押し潰しますか?」
 中村は首を横に振った。
「いや、変にジタバタすんな。段取りの通りに行け。ドアが開かんでも焦るなよ。トラックにグラスブレーカーが入ってるから、ドアロックされたらそいつで窓を割ったらええ。いつも四時ぐらいに出よるから、戸波はそこに合わせてスタンバイしてくれ。あんまり早く行くなよ」
 戸波がうなずき、中村は小さな黒ずんだ手を打ち合わせて一本締めのように音を鳴らすと、言った。
「ほな、よろしく頼むで」
 セルシオのドアを開けた戸波が、言った。
「ハッシー、乗って行かんの?」
「うん、歩いて帰るわ。ありがと」
 橋野はそう言って、家の方向へ歩き出した。数時間後には始まる。田島を乗せたセルシオが地鳴りのようなエンジン音を鳴らしながら、のろのろと進み始めた時に、一度振り返った。助手席の開いた窓から、田島が手を振った。坂間がジョグでセルシオの後を追い、二台とも角を曲がって姿を消したのを確認すると、橋野はまた家の方向へ歩き始めた。国道で信号待ちをしているとき、中村屋の方向へ一台のタクシーが曲がって行くのが見えた。『回送』と表示されていて、橋野は角から顔を出すと、そのタクシーの後ろ姿を追った。見覚えのあるクラウンコンフォートで、フランケンかと思ったが、ナンバープレートの番号は違った。あまり見ていたら、バックミラー越しに気づかれるかも。そう思った橋野は、顔を引っ込める寸前に気づいた。リアバンパーの端に、擦り傷のような痕がある。見間違いようはない。あれは、自分が蹴った跡だ。信号待ちに戻って、考えた。どうしてナンバープレートの番号が違うのか。答えは、自分が鞄の中に入れている二枚のナンバープレートと同じだと考えて、差支えなさそうだった。家への道を歩きながら、橋野は考えた。
 もしかして、フランケンも計画の一部なのだろうか。
       
 ワイドボディの四トントラックは、新しい型のトヨタダイナで、車長は七メートルを超えていた。海風に晒されるコンテナヤードの駐車場の端に停められているが、車体は全く錆びていない。田島は、背の高い運転席を見上げながら思った。中村はゴルフ同様、新しい車を用意したのだろう。それだけでも、本気だということが分かる。
「でかいな」
 坂間はジョグに跨ったまま、戸波のセルシオが走っていった方向を眺めていたが、スピードメーターの上に置いたヘルメットにもたれかかって、呟いた。田島と目が合うと、続けた。
「お前、マジでやるん?」
「は? ここまで来て、何をゆうてんねん」
 田島が言うと、坂間は笑った。
「いや、なんか現実感ないってか、俺ら、小学校から一緒やったやろ」
「そうやな」
「こんなん、想像した? 二十歳つったら、結婚して子供でもおるかと思ったけど」
「それは早すぎんか」
 田島は笑った。確かに小学校時代に想像していた未来のリストには、これは含まれていなかった。坂間も笑っていたが、田島の目を見ると、言った。
「これが頂点やったら、どうする?」
「どういう意味?」
「お前はどうか知らんけど、俺は正直、楽しみやねん。車があって、各々役割があって、襲う相手がおって。かっこええやん。映画でゆうたら、最後の場面や。でも、そっから後も、俺らは生きるんやで」
 坂間は一息で言い切ると、ヘルメットに助けを求めるように、少し深めにもたれた。現実に、エンドクレジットはない。田島はトラックのタイヤを眺めながら、うなずいた。
「俺は、そっから後の方を楽しみにしてる。これはただのバイトやからな。ほな、現地で」
 坂間が、ヘルメットを再び被って去っていく後ろ姿を見ながら、田島はトラックの運転席に上がり、エンジンをかけた。車載時計は、午後一時五十分を指している。
       
 時計が午後三時を指したとき、家に戻ってからずっと音楽を聴いていた戸波は、ヘッドホンを外した。余計な情報はできるだけ入れずに、耳障りのいい音だけが入ってくる状況を、意図的に作り出していた。洗面所で顔を洗いながら、再度、頭の中で繰り返した。田島に方向を伝えるだけだ。その後は加勢するが、あっさりカタがつく可能性もある。田島と坂間は腕っぷしが強い。自分はそこまで立ち回りは上手くない。だから、昔に興味本位で買ったスタンガンを引っ張り出した。誰に使うつもりでもなかったが、上着のポケットに入れておけば、役に立つことはあれど、足元を掬われることはないだろう。戸波は、前髪をムースで固めて、軽くドライヤーを当てた。倉庫までは三十分。余裕を持って、四時ちょうどに到着できる。
 着替えて、部屋の中を歩き回っている時、バッグの中で携帯電話が光っていることに気づいた。勝手にマナーモードに切り替わっていたことに気づいて、戸波は舌打ちした。ボタンが間違えて押されることはこれまでもあった。しかし、よりによって今日も同じことが起きるとは。連絡がつかないような間抜けでは、成功するわけがない。戸波はバッグの中に手を差し込んで、救命薬を手にするように引っ張り出した。こんなドタバタで、上手くいくのだろうか。そう思いながら、フラップを開いた。
 着信が八件。全て、田島から。
     
 バッテリーが上がっている。橋野は、車庫の中を全てひっくり返していた。たった一つの資材があれば、解決することなのだ。キーを差し込んで捻っても、ゴルフのセルモーターは一切回らなかった。それどころか、警告灯も点かない。橋野は、ブースターケーブルを探した。アルトのリアハッチを開けて中を探っても、ディーラーから車検のたびにもらってくるティッシュの箱が何箱も出てくるだけで、肝心のケーブルは見つからなかった。アルトを使うわけにいかないのは、分かり切っている。真っ先に電話をかけたのは、田島だった。トラックの運転席にいるようで、ディーゼルエンジンの音が鳴っているのが聞こえた。最初は驚いていたが、ほとんど間を置かずに、田島は言った。
『ブースターはある?』
『これから探す』
 橋野はそう言って、電話を耳に当てたまま車庫の中を探り始めた。田島はまだ電話の向こうにいて、次の案が浮かんだように言った。
『ハッシー、抜けた方がいい。セルシオでやるから』
『ナンバーは?』
『元々、盗難車や』
作品名:Split 作家名:オオサカタロウ