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はじめてのミッション マゲーロ2

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 床がせりあがってふたが開き、階段が見える。映画なんかだと、こういうのは入った途端にワナだった、みたいなオチだろう。
 「アキヒコ、入るなよ、やめとけよ」と言ったときにはすでに転げ込んでいた。
 やむなくぼくも階段を下りたが、センサーに反応して明かりがつくのだろう。そこはどうやら武器庫のようだった。ほんの三畳間ほどの空間の壁には銃と思しきものがずらりと並び、棚には使い道の分からない様々なものが置いてある。いいから、早く出ようよ、と弟を捕まえたときには、彼のポケットはすっかり膨らんでいた。まあ、いいか。ぼくも一番小さい銃を一つ失敬しズボンのポケットに押し込んでおいた。後で何かのときに役立つかもしれない。階段を上がって隠しボタンを押すと、再びただの床に戻りなんの痕跡もなかった。
 こんな場所に簡単に入れるのは怪しすぎる。普通は厳重にロックされてるはずだろう。あとでややこしいことにならなきゃいいけどなあ。
 寄り道は時間にしてほんの十分くらいだっただろう。当初の予定より遅刻したとしても三十分くらいだろう。チューブに乗り込むと今度は慎重に番号を入力した。
 猛スピードで発進したチューブはどうやら無事にたどり着けたようで、停車し
 たステーションにはマゲーロが待ち構えていた。ああよかった。
 「ちょっと遅いよ。教えた番号、間違えてないか心配したぜ」
 「ごめん、ちょっと支度に手間取って」
 言いぬけておいたが、やはりお見通しか。
 
 そこはいままでにみた地下世界とまた違った場所だった。なにかで薄明るい、学校の体育館の3倍はありそうな大きめの広場の周囲に、蜂の巣みたいな白っぽい多角形がみっしり奥まで立ち並んでいた。
 マゲーロはささっと路地裏みたいな入り組んだ小道にぼくたちを導き、複雑に曲がりながら階段を登っていった。
 「わあ。ゆうえんちの迷路みたーい」弟がはしゃぐ。
 「しっ、あまり声ださないで。君らをここに連れてくるのは内密なんだから」
 ぼくたちは黙ってうなづき、マゲーロに続いた。
 「ここは我々の居住エリアだ。こういう形が圧力にも地震にも強くて一番安定するんだ。で、ここがオレの家だ」
 カエルの巣穴かと思いきや、意外と人間ぽい部屋だった。こじんまりとしたキッチンに椅子とテーブルがある。ただ、キッチンにおいてある食材らしきものは得体がしれなかった。乾物らしきものがくくられて天井からぶら下がっていたが、カエルっぽいマゲーロだけに、虫っぽく見えたので、ぼくはあまりよく見ないようにした。
 部屋はシャボン玉が沢山くっついたようなつくりになっていて接している部
 分から隣の部屋に入れるらしいが、ドアもなにもない半透明の壁だった。そこ
から本当にシャボン玉のように壁を通り抜けてTとAが現れた。
 「ああ、待ってたよ。」Tがほっとしたように言った。「なにもかも、急がないといけないからね」
 マゲーロがその辺のものを押しやって空間を作り、ぼくたちは輪になって直接床に座った。
 「で、カワムラサトシになっているエージェントSは急に具合が悪くなって入院してたんだ。意識が朦朧としてテレパシーも出せなかったんだよ。生命反応だけでたどるのがすごく大変だったんだ。」
 Tが話し出した。
 「地球病か?」
 とマゲーロ。
 「なにそれ?」
 ぼくが尋ねた。 
 「ああ、地球に長くいると、エイリアンによってはここの悪いものが体に蓄積し、ある時期に限界を超えるんだよ」
マゲーロは言った。
「でもどうしてこっちにいるコピーの本体のサトシくんに影響がでるわけ?」
「解明されてないんだが、どこかで連動してしまうらしいんだ。ほら、遠くに離れた双子とかもシンクロニシティするっていうあれと似たようなもんだろう。」
「サトシになってるエージェントSは地球に来てからもうかれこれ1万5千年
くらいになるのか?今回が5千回目くらいの任務かあ。発病する頃だよなあ」
「突然発症するんだよね、地球病」
「親が相当ショック受けてたよ。意識失って倒れたらしいけど、地上の病院じゃ原因不明。精密検査するらしいけど、大丈夫かな、地球人で通せるかな」
「体力落ちてコピーにほころびが出てるとまずいんじゃない?」
「ぼろが出る前に始末されるかも」
「サトシ本体もなあ」
 
エイリアンたちの会話はちんぷんかんぷんだったけど、かなり物騒な話になってるんじゃないか。
「あの、それって二人を交替させられないの?」
ぼくは思わず口をはさんだ。

皆がぼくの顔をみて一瞬シーンとなった。
「いや、考え付かなかった。おまえらみたいのは例外中の例外、違法もいいとこ、あってはならない状況だからねえ。ふつうはこっちでは連れてきた人間の子供はここの居住区で洗脳されながら一生暮してもらうから」
「げげっ。それって随分非人道的でひどい話だよね。」
「は?非人道的って言われても、おれら人間じゃないから」
しれっと返された。TやAもうなづいてる。
マゲーロたちの感覚はやっぱり人間じゃないんだ、とつくづくわかった。
 
「ただ、おまえらに限ってはお互い持ちつ持たれつの関係なので、おまえらのい
う人道的立場でなんとかしてやってるだろ。」
「それはありがたいけどさ、あのサトシ君たちをなんとかしてあげちゃダメなの?記憶の入れ替えとかすればいいんだろう」
「うーん」
マゲーロが腕を組んで考え込んでいる。
「そう簡単じゃないんだよ。まずSは意識不明で寝てるんだし、サトシは事情をわかっちゃいない。Sをどうやってここまで運ぶんだよ。サトシもすんなりついてくるかどうか」

「でも時間もないし、なんとかしないと」

その時アキヒコが
「これは何か使えるかなあ」
とポケットの中身を床にぶちまけた。

「うわっ。これ一体どこから?」
マゲーロたちがぼくたちをしげしげと見た。
「いや、あの、ちょっと迷いこんだところにあったもんだから」
彼らはそこにあったものをいじりまわし
「おお、これはサイズ変換装置じゃないか。出入り口のところに取り付けるやつの中身だ。」
Tが手のひらに入るヨーヨーほど丸い機械をとりあげた。
「これって一時的に記憶を操作できるやつでしょ
Aがボールペンみたいなものを手に取った。
「これなんか加速装置じゃないか。」
マゲーロが手にしたものは指輪型のボタンスイッチみたいなものだった。
「加速装置ってなに?」
「このスイッチをいれると、自分を取り巻く時間だけ早めることができるんだ。つまり相手には目にもとまらぬ速さで瞬間移動したみたいに見える。使いすぎると歳くうけどな」
「ふうん、便利そうだね」
ぼくは自分のポケットにも入れたのを思い出し引っ張り出した。
「じつはぼくも持ってるんだけど。これなにするもの?」
「あ、こいつはけっこう使えるぞ。地上でいうころのスタンガンに近いもんだ。もっともあんなふうに危険じゃない。人畜宇宙人無害だ。これで撃たれるととりあえず気絶するんだよ。痛みもダメージも与えない。そして撃たれた前後の記憶が曖昧になる。護身用にもってるといいよ」

「よし、こういうものがあるならまた話しは別だ」
マゲーロはみなを一渡り見回し、
「これから計画を話すぞ」
全員真剣にうなづいた。