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はじめてのミッション マゲーロ2

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 弟はそうもいかないが、彼の見てるものはほぼアニメや戦隊ヒーローものといった子供向けに限られていたから、細工はされていないようだった。
 問題は学校での友達関係だろう。Tが仲良くしていた子と同じように仲良く付き合ったが、もしかして相手には違和感があるかもしれない。
 性格もコピーされているから仲良くなる相手も地上と同じ感覚で選んでいるものの、なにしろ地上の学校とはメンバーが違う。しかも彼らが本来の居場所から知らずにすりかえられた子供たちだ、と分かってしまっているぼくには、なんとなく心苦しいものがあるので、どうしても態度がぎこちなくなってしまう。
 ここに来てから3日たった頃、ぼくは学校でサトシという子に声をかけられた。
Tたちとはあまり親しくなかったのか、ぼくの記憶には彼が6年生だという情報しかなかった。
 ぼくは放課後、図書室にいた。この世界で地理の本はどう書いてあるんだろう、とふと気になったからだ。
 案の定そういう本自体が存在していなかった。ほとんどが小説や物語ばかりで、しかも架空の土地を舞台にしたファンタジーばかりだった。
 やっぱりこのミニチュアの町は不自然だった。所詮エイリアンが地球上の人間の町をまねて作った箱庭なんだ。そしてここの子供はそれに気付かない。
 書棚の間に立ったまま何分もぼーっとしたのだろう。
 近づいてきた人物に気付かなかった。
 「タカアキ君、だったよね」
 声をかけられ、ぼくはかなりビクッて振り向いたに違いない。
 「ああ、ごめん、急に声をかけちゃって。驚いたよね。」
 彼は謝ると、少し声を落とし
 「ぼくのことは知ってるよね。」
 「え、まあ。6年のカワムラサトシ君だよね」
 正直いってそれしか知らない。
  サトシ君は何か意味ありげに頷くと
 「ちょっと校庭で遊んで帰らないか?」
 と誘った。
  
 断る理由もないので帰り支度をして校庭に行くと、サトシ君は鉄棒に腰掛けてバランスをとりながら足をぶらぶらさせていた。
 手を振って合図すると手を振り替えしてくれた。
 「なにか用なのかな?」
 近づいておそるおそる声をかけると、サトシ君は
 「ま、ちょっと鉄棒でも練習しながら」
 と鉄棒からポンと降りていきなり逆上がりを始めた。
 よくわからず彼を見ていたら
 「室内だとどこかに監視カメラや盗聴器があるかもしれないだろ。ここなら誰にも聞かれないよ。でもどこから見られるかわからないから、とりあえずは子供が鉄棒で遊んでいる風に見えたほうが無難だろう」
 いきなりこんなことを言われ、ぼくはすっかりめんくらってしまった。なにも言えずにいると、
 「ここニ、三日のタカアキくん、前とちょっと違うよね」
 など言い出すのでぼくはかなりドキッとした。
 「な、なんのことかな。違うって何が?」
 だめだ、声が上ずってしまった。
 「なんか分かるんだよ、おれ。ちょっと遠慮がちに振舞ってない?なにか微妙に違和感あるんだ。」
 超どっきり、が顔にでてたんだろう。
「やっぱり何かあるんだね」
「いや、なんでもないよ」
 もう、不自然だ。バレバレだよ。
「なんでもないって顔じゃないなあ。タカアキ君もなにか変だと思ってるんだろ。だからさっきも図書館で文学以外の本を探していたんだろ?」
 うわー、図星だ。自分の演技力の無さにがっくりだ。
 「最近思うんだけど、ここ何か変だよな。何が変なのか考えると頭がぼんやりして考えられないんだけど、それが変なんだよ、他の連中は変だってことに気付きさえしない」
 まずいよ、まずいよ、どうしたらいいんだ。そうだよ、ここは変な世界だよ。でもどうしてサトシ君はそれに気付きだしたんだろう。
 「ごめんなさい、よくわかんないよ。あのさ、家で弟が待ってるからぼく帰らないと」
 ぼくはわけの分からない言い訳をして後ずさると、きびすをかえしてその場から逃げ出してしまった。
  
 家につくや、マゲーロに電話をかけようとしたら、マゲーロのほうからかかってきた。一応マゲーロがぼくたちの担当者ということになっているので、この家の電話はマゲーロと連絡をとることができるようになっている。
「お、タカか。例のエージェントがわかったぞ。どうやら入院してるみたいなんだ。」
「ねえ、マゲーロ、それどころじゃないよ、やばいよ、今連絡しようとしたとこ
なんだ。」
「なにかあったか?」
「あったもあった、ぼくたちがTとAじゃないって6年生の男子にばれそうだよ。その子はなにかが変だって気付き始めてるけど、どうしたらいいの?」
「なんだって?そこに暮す子どもが疑問を持ち始めてるって?」
「最近思うようになったらしいよ」
「うーん、普通そこに暮してる時点で記憶は完全にこちらでコントロールされるはずなんだけどなあ。そいつの名前わかるか?」
「カワムラサトシ、だよ」
「あ、やっぱり。」
「え、なんで?」
「地上で病気になってるのがそいつのコピーだから。」

 地上から戻ったエージェントTとA、そしてマゲーロと、緊急で集まることになった。といって、この居住区でもどこでも、ぼくたちが二組存在するのを見られるのはまずい。ということで、マゲーロの自宅で落ち合うことになった。
 地上の家でぼくたちが長くいないのは怪しまれるので、夕飯までには彼らも帰らないといけない。
 マゲーロの指示通り、例の神社に行って社殿の扉を開け覗くと、前にみた階段が見えた。偽造通行証のおかげですんなり入れる。これがないと本当の祭壇のある神社の中にしかいけないらしい。チューブに乗り込み、行き先にはマゲーロに教わった番号を入力し、スタートボタンを押すと、いきなりチューブが発進した。
 「これ番号間違ってたらやばいよなあ。」ぼくは思わずつぶやいた。
   
 
 5章
 
 「おにいちゃん、最後の字、間違えてた。」
 「え?マジ?そんとき言えよー」
 「だってすぐスタートしちゃったもん」
 とにかく行き着いたところでもう一回入力しなおすしかない。
 幸い数分でどこかにたどり着いた。
 なんというか、ここはえらく殺風景な場所だった。チューブはその先にいかず、折り返し地点のようだった。周囲はただの白い壁で、ドアが一つついていた。
 「あれ、見てみようよ」
 止めるまもなく、アキヒコは飛び出してドアを開けていた。
 「おい、待てよ」
 慌てて追いかけドアを覗くと、そこは棚やら箱が積まれた倉庫みたいなものだった。
 「アキヒコ、だめだよ。ぼくたちはやたらうろついちゃいけないんだから、誰かがいたらまずいって。」
 「なんか面白いもんあるかも」
 弟はちっとも聞いてないでどんどん中に入ってしまった。
 「こら、時間ないし、さっさと行くよ」
 追いかけたが、彼はすでに引き出しを開けまくっていた。ほとんどの引き出しはぼくたちには読めない文字の書かれた四角い薄っぺらな箱が詰まっていた。なにかの保存媒体なのだろう。
 「アキヒコ、面白くもない書類だよ。もう行こう。」
 呼んだが、弟はやはり面白いものを見つけてしまったらしい。
 壁の一部に巧妙に組み込まれた隠しボタンをすでに押していた。