小さなみどりの宇宙人 マゲーロ1
「オレはカエルとかおまえとかミドリ宇宙人とか呼ばれるのはごめんこうむりたいね。れっきとした名前がある。が、きみら地球人には発音できない。よって通称マゲーロで通っている。」
まげーろ?なんだかアマガエルがアマゲェル、アマゲーロってなまったみたいだなあと思ったが、それは言わなかった。
「わかったよ、マゲーロ。ぼくたちはどうなるんだよ」
マゲーロはうなづくと、
「だから、ゆっくり話をききたがったのはおまえたちだろうが。オレ様についてこいよ」
とすたすたと歩き出した。飛び跳ねたいのを我慢して一歩ずつ歩いてる、という感じの歩き方だった。
置いてきぼりにされても困るので、ぼくは弟と手をつなぎ、仕方なくついていった。
穴は薄暗いものの真っ暗ではなく、奥のほうに光が見えていた。穴はぐんぐん下に降りていく。光と見えたのは土の壁がぼんやり光るせいだとわかった。ひかりごけ、という発光する植物なのか、それともなにか光る塗料でも塗ってあるのかもしれない。ぐるぐる回って螺旋階段を下りていくような感じだ。この空き地の地下にこんなトンネルがあったなんて思いもしなかった。ぼくが心配することじゃないけれど、いずれここにビルなんかが建ったらどうなるんだろう、と気になった。
やがて前方から別のもっと明るい光が見え、近づくにつれぶうーん、ぶぅーん、と何か遠くの方でうなるような音も聞こえてきた。
そしてぼくたちは少し広くなった平らな場所に着いた。周囲の壁にはライトのようなものが埋め込まれ断然明るい。小さくなったぼくらにとっては家の八畳間くらいの広さで一方の壁にはトンネルが真っ暗な口をあけている。
「着いたぞ、ここからチューブで移動する。」
マゲーロはそういってなにか腕につけた装置をいじるとトンネルを指差した。先ほどから聞こえるうなる音が次第に大きくなってくる。
すると暗闇からすごい速さでライトが近づいてきたと思ったら、シューッという音とともに目の前にカプセルのような形のものがあらわれ停止した。
「さ、乗って」
カプセルの側面がかぱっと上がり、中にシートが見える。遊園地のカートみたいだ。
「おにいちゃん、これ並ばなくて乗れていいねえ。」
アキヒコはすっかり遊園地だと思っているらしい。
マゲーロはさっさと乗り込むと、座席の前のパソコン画面みたいなものにせっせと何か入力している。ぼくたちもその後ろの席に乗り込んだ。
知らない人の車に乗ってはいけません、と学校でも家でも再三言われているが、ここでマゲーロを置いてひきかえしたところでどうにもならない。こういう展開になるとは思いもしなかった。
「乗り込んだか?しめるぞ」
マゲーロはどこかのスイッチをいじってカプセル側面のドアを閉じた。
「ではシャングリラ東日本エリア第5区へ」
マゲーロがそう言った途端、カプセルはすごい勢いで飛び出し、地下鉄のような暗闇を突進していった。
ぼくは正直ちょっとびびったが、
「わー、おもしろーい」
アキヒコは初めてジェットコースターみたいなものに乗れて大はしゃぎだ。遊園地にいってもまだ小さいので乗れないものが多かったのだ。
「マゲーロ、これ安全なんだろうな?」
ぼくは声が震えないよう気をつけながらたずねた。
「地上のどんな乗り物より安全」
マゲーロは涼しい顔でシートに全身をうずめている。
気付けばこのシートはよくわからない柔らかな素材でできていて、乗ったものの体の形に合わせてぴったりフィットするようになっていた。
アキヒコは例によって興味津々であちこち触っている。
「これはチューブといって文字通りウォータースライダーの筒のような道が、地下世界に無数に作られているんだ。行きたいポイントを入力すれば、あとは自動操縦で、目的地に直結したチューブを選び他のカプセルとぶつからないようスピードも計算して連れて行ってくれる。」
「そりゃ便利だね。」
「そう、とても便利なんだが、最近の都会は地下鉄の深度がどんどん深くなって、危うくぶつかりそうなところがある。もちろんすぐ使用禁止で閉鎖されるし、すべてのカプセルに情報が伝わるけどね。」
ぼくはすっかり感心してしまった。
「ねえ、マゲーロ、こんな乗り物で行く地下に何があるのさ?」
聞いてみた。
「オレたちみたいな不時着宇宙人の居住地だよ。」
「マゲーロみたいな宇宙人って地下にそんなにたくさん住んでるの?」
「ああ、いるね。ここだけでなく、世界中に。」
マゲーロはぼくらのほうを振り向いて
「地球の人間にはわからないかもしれないが、宇宙を旅する生命体はゴマンとあるんだ。不時着するものもたくさんいる。」と語った。
「それって宇宙船直して故郷に帰るの?」
「帰れればはいいけどな。大概はムリだね。材料が手に入らない、救援がこない、修理できないで諦めるのが大半だ。ここを気に入った、という場合もある。これで地球って星は周囲千光年の中じゃあベスト5に入る環境のいい星だ。過去に居ついて何世代もここで暮してこの星の生き物として同化してしまった生命体も多い。擬態する能力を持つものが、地球人の中にすっかり溶け込んで普通のヒトとして生きてる場合もある。」
「え?ほんと?じゃその辺の誰かが実は宇宙から来たヒトってこともあわけ?」
「ま、そうだな」
「その人たちとマゲーロって交流あるの?」
「あるのもないのも」
「こうやって地下に行ったりする?」
「もちろん。ゲートは無数にありどこでも行き来できる。ただし、ヒトに見つからないように出入りしてもらうが」
そうこうしているうちに乗り物のスピードが落ち、次の瞬間停止した。
あたりは一面ほたるのようなひんやりしたあわい光に満たされた、広い円形の空間だった。周囲にはたくさんのトンネルがあり、カプセルが放射状に並んでいた。
そしてそこには無数の生き物たちが右往左往していたのだ。
カッパみたいなのやきのこみたいのもいる。
マゲーロと同じようなカエルっぽいやつが近づいてきた。
マゲーロが姿勢をただして
「カイロ隊長、人間の子供二名捕まえました。」と言った。
え?捕まえたって、どういうこと?
マゲーロって何者だ?
4章
カイロ隊長とやらはマゲーロより茶色がかって恰幅がよく、腰のベルトにはなにやらたくさんの武器が装備されているし、肩には短いマントを羽織っていて、いかにも上役っぽい。「でぶガエルだ」アキヒコが小声でつぶやいたが本人には聞こえなかったようだ。
「よし、マゲーロ、よくやった」
隊長はぼくらをまじまじとみると満足そうにうなづいた。
「おまえら、降りてこっちにこい」
銃とおぼしきものを突きつけるので、ぼくらはあっけにとられたままカイロ隊長に従った。
「おーい、マゲーロ。なんなんだよ、この展開」
ぼくは隊長について歩きながらマゲーロのほうを振り返って必死の視線を送ったが、マゲーロはちょっと申し訳なさそうに目を伏せて横を向いてしまった。
隊長はチューブのトンネルがない壁に並んだドアの一つに近づくと
「カジー、こいつらをスキャン室にまわせ」
別の部下にぼくらを引き渡した。
作品名:小さなみどりの宇宙人 マゲーロ1 作家名:鈴木りん