エヴァンス
「というか、この世界にこんな電化製品があったんですね」
『人間界から輸入しているんだにゃ』
「へ、へー」
蓮は思った。物の輸入ができるなら輸出もできるという事、その輸出物に自分が混じれば人間界へ行けるのかもしれない。
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■8話
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〜客間にて〜
エヴァンス「それで、私に貴族会議に出席して貰いたいとは一体どういう事だ」
カテリナ「五大貴族議会にエヴァンス様は四回欠席されています。代理のロザリオ様が毎回委任状を手に出席しておられましたが、その信憑性と、エヴァンス様の生死が疑問視されています。そのため、今回の貴族会議にてその委任状の不採用が議決されれば、ラピス家が議会から除名される可能性があります」
エヴァンスはそれを聞き、すっと眼を細める。
感慨深げなエヴァンスに、連はおずおずと手を挙げた。
エヴァンス「どうした、客人」
蓮「オレがここにいてもいいのですか? 場違いなんじゃ…」
エヴァンス「ああ、確かにそうだな、部屋にでも戻っているといいぞ」
蓮は戻らなかった。魔界の情報を少しでも仕入れておきたかった。
魔界の専門用語多くて、エヴァンス達の会話を理解するのは困難だったが、なんとなく、要人たちの重要会議にエヴァンスが顔を出さないといけない事だけは判った。
エヴァンスが議会での権利を剥奪されてしまうと、魔界は人間世界に向けて侵略を始める空気が整うのだそう。
魔界に人間が攻め込んで来た異常事態に対応する為、人間界に宣戦布告するらしい。
エヴァンスが人間からの被害者として、会議に同席し意見する事が求められている。
エヴァンスが人間を擁護しない限り、魔界は戦争の流れへと進む。
シャーロットは人間社会から得られるオタクアイテムが生き甲斐で、人間世界が争いで混沌に染まると、オタクライフが維持できない事を心配していた。
エヴァンス「だが私が、それに反対する理由があるのか? 私は人間にこんな身体にされたんだぞ。それはお前も知っているだろう? トニトルスシャーロット、頼む相手を間違えちゃいないか?」
エヴァンスは蓮から視線を外し、車椅子に乗り移った。
「シャーロット……帰れとは言わない。一応は客人だからな。……私の答えに不満があるなら明日また話を聞こう」
エヴァンスは心なしか柔らかく言い、部屋から出て行った。
「お姉様もそのように言っていますから、今日の所はこれにてお開きに致します。明日の正午あたりから再び場を設けましょう」
ロザリオはそう言うと、立ち上がる
「シャーロット様。くれぐれもラピス家の客人である蓮様に手を出すようなことはありませんよう」
「な!なんで判ったにゃ!?、今晩襲おうと思ったのに」
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結論から言うとエヴァンスは会議に参加するつもりだった。
問題はエヴァンスが要人の一人であること。人間界を破壊したい衝動がある魔族達は、エヴァンスが5大会議に参加して、人間を擁護する事を望まない。弱ったエヴァンスが議会に向かえば暗殺される可能性があった。
エヴァンスは人間を憎んではいたか、破壊したい程に憎んでいる訳ではなかった。だから会議には参加するつもりだった。
だがその為には暗殺されない為の力。身を守る力、戦う為の力が必要だった。
手足を失っているが、魔力を使えば戦える。翼は失ったが、えぐられた目は再生している。
エヴァンスは念力で剣を使う鍛錬をしていた。
車椅子に合う戦い方を研究していた。
五大会議は6日後、シャーロットにドラゴンに化けて貰い背に乗って行くこともできるが、魔族世界は力を重んじる。他者の力を借りたとなれば、それだけで議決権は剥奪されてしまう。
エヴァンスは現状、力を失っている。このままではいずれ議決権は剥奪されるシナリオだった。
五大貴族として、ふさわしい力を示さなければ、議会はいずれ除名してくる。
力を示す手っ取り早い方法が、陸路から会議場に向かう事だった。
会議場まで陸路から向かうのは、魔界でもトップクラスの実力が無ければ不可能であり、エヴァンスに今求められているのは、それだった。
陸路で行くには時間的猶予はない。
剣技を練習する猶予は、あっても残り2〜3日。
直にでもに準備して旅立たなければいけない…
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とある部屋にて、蓮はゆっくりとその剣を引き抜いた。
「っ!」
背後から息を呑むような気配を感じ、蓮は振り返った。
ロザリオがいた。腕を組んで脱力したように構えていた
瞳には、エヴァンスが石化の魔眼を使うときと同じような紫の光を点している。
蓮はなぜそんなに敵対心を露わにしているのか、少しショックだったが、よくよく考えてみれば当たり前の事だ。蓮は今、剣を手にしているのだ。蓮がいた日本でこんな剣を抜き身のまま持ち歩けばたちまちのうちにお縄になってしまうだろう。
それほどに今蓮が手にしているものは危険なものなのだ。
それでなくても、ロザリオにとって、人間の男はエヴァンスから四肢を奪い去った存在と同種のいきものなのだ。
「すまない」
蓮はそういうと、ゆっくりと剣を床に置いた。
ロザリオは少し複雑な、なにかを迷うような表情をした。目の光が明滅し、そして消える。
数秒間だが、蓮には酷く長く感じられた。
「申し訳ありません蓮様。少し神経質になっていたようです」
ロザリオはそう言うと、謝罪するようにお辞儀をした。
「こちらこそ、驚かせてすみません。男の子って武器を見るとなんか手に取りたくなっちゃって……」
蓮はそう言って頭を掻く。途端になにか少年っぽい事を言っているような気がして、恥ずかしくなった。
ロザリオはそんな蓮の様子を見て、一気に警戒心を解いた様子だった。
「ここの剣はやっぱり触っちゃダメだったか?」
「いえいえ、構いません。どのみちもう使う者もいま――」
ロザリオはそこで唐突に言葉を途切れさせると、少し苦い顔をした。
「そう……ですね。ここにある剣達は使い手がいなくなってからもう随分経つ物達です。
そうですね二、三本くらいなら差し上げても構いませんよ。そちらの方が、彼女らも喜ぶでしょう
しかし、その手応えはあまりに重く、少し振るえば腕が痛くなるほどのものばかりだ。
せっかくなので本物の剣で素振りでもしてみたいと思ったものの、この世界の住人向けに作られている剣は酷く重く、大して運動神経のない蓮には到底扱えるものではなかった。
一般に『密度が高い物質ほど硬い』という事を考えてみれば当たり前のことではあるが、上等のものほど重く出来ているらしく、良いものを探そうとすればするほど重くて持てない物になっていった。
しかし、蓮はなんとなく諦めきれず物色した。
ロザリオが言うには、業物の順番に並んでいるらしく、右に行くほど良いものらしい。
「これは……」