エヴァンス
手応えは重い。だが、その重さはそれまでのような振るえば腕を壊してしまいそうな凶暴な重さはなく、まるで剣自身が強い意志が質量を得たような重さだ。蓮は柄を握った。
「ほう、その剣を選ぶか」
開いた扉から入ってきたのは、エヴァンスだった。
「その剣を自らのものにするのか?」
エヴァンスは蓮と微妙に目線を合わせないようにして、彼の手に握られている剣を注視しながらそう言った。
その抑揚の無いセリフからは何の感情も読み取れず、蓮はその圧力めいた雰囲気に思わず剣を鞘に戻した。
「すみません、やっぱり触ってはいけないものでしたか?」
そう言って、元の場所に返そうとする。たしかにこの剣は他のものと一線を画した雰囲気を持っている。きっと高級なものなのだろう。蓮はそう思った。しかし、エヴァンスはそれを制する。
「いや、……構わない」
そして、エヴァンスはやや逡巡するよう言葉を紡ぐ。
「ロザリオにも言われたのだと思うが、その剣達は、もはや主を失ったもの達なのだ。
……誰にも使われず、自らの在る意味すら分からず、保存の魔術のせいで朽ちることも容易には出来ず、ただただ悠久の時をそこで過ごすのは、たとえ剣とてあまりに退屈だろう」
蓮は手にした剣を素振りをした。。
空気を切り裂く音は高く透き通った音だった。
初めて刀に触ったのに不思議と手に馴染む。
「この剣、……頂きます」
そう宣言する蓮を、エヴァンスはどこか郷愁を感じているような目で見つめ、そして、
「そうか」
と言い哀しげに笑み漏らした。
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