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エヴァンス

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「蓮様はまだ気付いておられないかも知れませんが、この館には性の機能や性欲を抑制するような魔術式が組んであります。私たち姉妹の許可無く射精することは出来ません」

「……」

「もちろん、……その、ご自分の手で……上下して、慰める事は出来ますが、決して最後まで到達することが出来ませんから、悶え苦しんで気が狂ふれてしまうと思います。お勧めはしません」

 自慰に関する言葉はサキュバスたちには恥ずかしい言葉なのだろうか? とても言いにくそうなロザリオだった。

「も、もし、どうしても我慢が出来なくなって、ご自分でなさりたくなってしまったら、言ってくだされば、少しくらいは何とか出来るかと思います」
 ロザリオは恥ずかしそうにそう言った。ロザリオが恥ずかしがるポイントが蓮には、よく分からなかった。

「ところで、どうしてそんな性欲を抑制する術なんて敷いてあるんですか?」
 蓮は率直な疑問を投げかけた。

「サキュバス……ひいては淫魔族に言えることなのですが、抑制する魔術がないと、お、お、……」
 ロザリオは顔を赤くして、目を逸そらし、ふうと一呼吸おくと、
「オ、……ナニー……をし続けてしまう……のです」


「淫魔族というのは、元来……性的快楽を求める魔性なのです。それは私たちの成り立ちを考えれば極々当然のことではあるのですが、そのまま、始終……そういうことに、ふけっていては文化的な生活は望めません。そのために、必要なときだけ性欲を持てるように、魔術で制御する様になったのです」
 ロザリオは、説明がよほど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして、口元を隠すようにハンカチを当てた。


恥ずかしいついでに、いろいろ聞いてみた


ロザリオの話では、こちらでのことは、人間界では一日の夢として認識されるとのことだった。どうも魔界と人間界は時間の流れがズレているらしい。
 しかし、完全にズレているというわけでもなく、ほぼ同時に進んでいるが、魔界に来た人間が現世に戻る際は元居た時間軸に戻るのだそうだ

 また、屋敷にはテレビもゲームもパソコンも無い。蓮が遊べる娯楽は図書館くらいしかないらしい。

蓮は思った。図書館に行けばこの世界から脱出する方法が書かれた本が見つかるかもしれない。
連はロザリオに内緒でこっそりと図書館に向かった。


【西洋の巨大図書館】蓮の第一印象だった。イギリスの国会図書館ならテレビで見たことがある。 イギリス国内の全ての出版物が貯蔵されているとか。日本でも国会図書館があり、国内全ての書物を観覧できるらしい。蓮は国会図書館に行った経験はない。少ない知識を妄想と重ね合わせていた。

館内に一歩足を踏み入れたとたんに、思わず息をのんだ。

壁一面にそびえ立つ本は無限に天井まで続いている。地平線ならぬ本棚線と言える無限空間。

本に覆い尽くされ、天井が見えない上に外からの光が入らない。なのにシャンデリアが間接照明の様に働き、柔らかく館内全体が照らされている。

魔術で空間が広がっているのか、、蓮は、この図書館の豪華さに圧倒された。
 
 棚はジャンルごとに分けられており、そこから更に言語ごとに分かれている。
 はめ込まれたプレートは全て古いラテン語が書かれており、蓮は読めなかった。

蓮とっては、ラテン語かどうかすら判断できない。

 読むのを諦めて図書館から出ると、、正午の鐘がなった。
「蓮様、お食事の用意が出来ました」
 ロザリオに、いきなり呼び止められ、思わず驚く。
「屋敷の中には、客人を見張っておくことが出来る魔術が仕掛けられていますので、用のある人物がどこにいるのか位は分かります」
 

監視されているなら、こっそり脱出は難しいと蓮は思った


「それでは、食堂の方に参りましょう」

「あ、ロザリオさん、この図書館なんですけど……、日本語の本はどこに在るんでしょう?」

「――そうでしたね」
 
ロザリオは言語のことを失念していたらしく、申し訳なさそうに笑って、
「並び替えておきます」
図書館の入り口に在るカウンターの中に入ってなにやらぶつぶつと呪文を唱えた。すると、

 ――ガチャン!


大きな作動音がして、本棚が一斉に回転にした。一回転しただけだといいうのに、そこに在った本は全て入れ替わっている。

「屋敷全体に貯蔵された和書を集めておきました。お食事が終わったら読まれると良いかと思います」

 しかし
 そこに在る本は全て江戸以前の書物だった。文化的価値は高いが、全く読めない。

「ええと、書かれた時代が違うようで……俺には読めないようです」
 ロザリオは少し考えて
「でしたら、映像資料用の魔導書はどうでしょうか?」
 再び魔法を唱えると棚の配置が一瞬で変わる。一冊を開くと
 本から立体像が空間に映し出された。
 角が生えた男が、本の上に立つ様に現れる。
 SFの技術のような立体映像に蓮は驚きを隠せない。

「このように、映像が見ることが出来るため、字の読めない方でもおおよその内容を理解出来ます。また、そのまま本として読むことも出来る非常に情報の多い資料です。ただ、動画の音声までは翻訳出来ませんが」

言語はランン語がベースである。
本を閉じると、本の中の男は、キインと軽い音を立てて砕けた。

「では食堂へ向かいましょう、せっかくの料理が冷めてしまいます」
 ロザリオはそう言って、蓮を促した。



魔界の食事は思いの外、質素だ。
 おいしいことはおいしいが、人知を越えた美味というわけではなく、どちらかと言えば素朴な味だと蓮は思った。
 ロザリオは一緒に食事をすることはなく、エヴァンスもまたそうだった。
広い食堂で、一人で食べる蓮だった。
 蓮はほんの少し寂しさを感じた。

 
食事が終わると、食器をこのままにして、いいのか疑問に思ったが、しばらくすると、食器は消失した。食器も魔法
かなにかのもので、食べたものも魔法だったのかもしれない。と蓮は思った。

食後、この後、どうしていいか、わからず、
さっきの図書館に行ってみた。

映像資料用の、魔導書を読むくらいしか、今の蓮に出来ることは無かった
 
蓮は一つの魔導書を机の上に置いた。先程と同じように立体映像が展開される。それは、魔界の生態系についての教養番組のような内容らしく、蓮の知らない生き物の狩りや子育てのシーンが映し出される。
 文字が読めない上に、聞こえる音声も異国の言葉なので、詳しい内容は分からない。
 
 次の本でも見ようと書架を覗き込み、その中で一際豪華な背表紙に目をとめた。他の魔導書に比べて厚く、金糸を織り込んだ細かい刺繍が施されている。


「なんだろう、これ」
 蓮は、おもむろにそれを書架から引き抜いた。
 重い。

六法全書程の厚さがあり、重くて硬い。これで殴れば普通に武器になるかもしれない。一瞬、蓮は野蛮な考えが浮かんだが

その本を開くと、一人の女性が本の上に現れた。年号の様な数値が表示されたので、魔界の歴史書の様なものかもしれないと思った。
 場面は戦争のようなシーンに移り、異形の怪物たちがその女性に襲いかかる。しかし、その女性はほとんど動かず、呟くと、怪物たちは身体が石化していった。
作品名:エヴァンス 作家名:西中