ヤクザ、VRゲームにハマる!
寺井は考えた末、アイテム「天使の羽」をプレゼントした。天使の羽はプレイヤーに羽が生えて空が飛べる様になる。あくまで、1時間程度の作用しかない消耗品であるが、これで少しは仮想現実の面白さを理解してもらえるかもしれない。
1時間後
「飛んでるだけでつまんなーい」
マジか! 空に浮く感覚とか、うまく飛べなくて練習する醍醐味とか、ありませんでしたか?
「ナギ、しょっちゅう、おじいちゃんと一緒にスカイダイビングとかしたり、セスナにのってたりするから」
レベルが高すぎる園児だ。こうなったらとっておきのを出すしかない。スーパーマンスーツ。買えば50万円もする装備品で、音速を超えて飛べるし、宇宙にも出られるし、パンチ一つで大地も破壊する。爽快さ抜群のスーパーアイテムだぞ。
「最初は面白かったけど、一通り惑星破壊し尽くしたら飽きちゃった」
飽きましたか! まあ、絶対に飽きないと言えば嘘になるけど、オレがスーパーマンスーツを初めて装備したときは、泣けるほど感動したというのに。
なんかオレの人生を否定された気分で悔しい
「おじさん泣いてるの?痛いの痛いのとんでけーー」
お前があの世に飛んでくれ
子供に愚痴るとか情けないぞ寺井。そんなんで組の頭が務まるのかよ。
いかん、ゲームにかまけて仕事してなかった。
寺井はログインしなおし、ヤク買ってくれくそうな人を探した。
新規客は大体口コミでくるから、場当たり的には、普通探さないものだけど寺井は独自の販売ルートを確保していた。
と、いっても、特別な方法でもない。、ふつうにゲームクリアを目的に普通に誰かと知り合って遊んで、世間話の合間に自分の薬物の体験や逮捕された体験を語ったりすると、興味本意で話に食いつく奴がいるから、そういう奴に君も薬物欲しい? と聞くと高確率で売れる。商品は定形外郵便で全国どこへでも。
今日は初心者の溜まり場に出かけて、一緒に冒険してくれる仲間をさがした。それが寺井の今日の仕事だった。
家に帰ってナギとコタツに入る
ふと
ナギが押入れからエッチ本を出してきた。子供だから分からないはず、だから大丈夫、
だと思ったけとナギが裸体の女優を見ながらニヤニヤしてる。
まさかその若さで、もう目覚めたのか!
女優になるにはあと10年はかかるのに
「これと同じようなのがお爺ちゃんの部屋にあった」
おじいちゃんも、同じの持ってたから、おじさんと爺ちゃんは似たもの同士、仲良しこよしなお友達
と言う意味でのニヤニヤだったか。
最近の子は卒熟と聞いていたから、勘違いしてしまった。
ナギは更に押し入れから、何かをとりだした。
「この白い機械なに?」
古びたゲーム、昔流行ったスーパーファミコンだ。
「ゲームなの? やりたい」
試しにやらせてみよう。昔のゲームはVRに引けを取らないくらいにハマった記憶があったから、プレイする順としても正解かもしれない。
結論から言ってナギはレトロゲームが合っていた。VRなんていう高価な機材が生み出すリアリティよりも、不自然でぎこちないシンプルなドット絵に新鮮さを感じてるようだ。
レトロゲームがナギのお守りをしている間に、仕事を片付けようと思う。今回は仕事仲間とVRで打ち合わせることになってる。
しかし、時間になっても来ない。ログインしている筈なのに、いったいあのキャバ嬢は何してるんた?
ちなみにキャバ嬢というのは、麻薬の売人として、うってつけの職業だ。カネに余裕のある客を相手にしているから、覚醒剤も売りやすい。
今ここで待ってるキャバ嬢はホストクラブにハマって店に借金して返済できなくなって、ウチの組がその借金を肩代わりする代わり、麻薬の密売を手伝ってもらうのだ。
ホストにハマるキャバ嬢よくいる。ホストに借金をしているのは稀ではあるので、探すのは意外と難しい。ヤクザがホストクラブに営業をかけ顔なじみになって、債務者の情報を教えてもらうのだけど、表面的には消費者金融を装うから、正面から堂々と営業かけたりする。堂々やるから目立ってしまい、ライバル業者(ヤクザ)に因縁をつけらることがあるが、ヤクザだとバレるのは死活問題で、もしバレて警察が動いたら、組の皆に迷惑かけるから、抗争に発展する前に、とんずらしなきゃいけない。
相手の縄張りに出来るだけ入らないのは、どの業界でも暗黙の掟なのだろうけど、掟だと思い込んでしまうと油断して、ヤクザな商売を一般人が真似て参入してくる。一般人だから、恥じる事もなくて、警察に相談するのも恐れない。ヤクザにとっては一般人のライバル業者を相手にするのが一番厄介で、ならいっそのことヤクザが積極的に縄張りを取り合って暴れててくれてた方が、ヤクザ全体にとっても仕事がやりやすくなるわけで……
キャバ嬢について
借金は平井組が、大目に見る代わりに覚醒剤の宣伝をキャバ嬢に頼んでいる。店に来る客と店外デートして、それとなくバイアグラの一種と称して売りつける。もちろん身体を売るのとセット販売してもらってもいいのだが、そこまでは口出ししない。戦後直後とか、警察が怠慢している時代なら、強制買春はあったらしけど、法整備が整った現代ヤクザにとっては一般人はいつ警察に寝返るかわからないから、過度な追い込みはできない。
ましてや一般人を闇の商売に引きずる込むつもりなら、持ちつ持たれつな関係が大事になる
これから会うキャバ嬢も持ちつ持たれつつ、闇の商売に引きずりこまれたのだが、
リアルだけでの麻薬の売上では足りないからVRでも覚醒剤の宣伝してもらってるのだが、今日はその宣伝活動での感想というか状況報告にかこつけてモンスター狩りを一緒にやりませんかと誘うつもり。
VRにて、やってきたキャバ嬢はゲームだというのに色気を出してる。バーチャルセックスは技術的に可能だと思うのだが、風俗業界を暴力団が牛耳ってるから、メーカー側になんらかの圧力がかかってるのかもしれない。覚醒剤の効能だって、ゲームの仮想現実で再現可能らしいのに
ヤクザがメーカーに圧力かけてしまう事例について寺井はテレビでしか見たことない。
平井組は裏方だから、株主総会なんて出たりしないけど、他の組はエゲツナイのもいる。総会屋は、真正面から会社に脅しかけてしまう。、あからさますぎて、いつ警察介入してくかわからない。他のヤクザが縄張り争いしたくてメーカーに近寄ろうとしても警察がウロウロしてると、警察の手が飛び火して、巻き込まれかねないから、縄争い争いに参加できない
「縄張り争い」というと抗争的な意味に見えてくるが正確ではない。ヤクザ自身が警察に告げ口合戦をして、メーカーの独占を阻止するだけで、姑息な争いなのである。
作品名:ヤクザ、VRゲームにハマる! 作家名:西中