ヤクザ、VRゲームにハマる!
寺井とはオレ(主人公)の名前である。マサシはオレの部下となったのである。しかもオレは頭だ。カシラと呼ぶべき自然な決まり事はどうなったんだ? カシラでもなく兄貴でもなく、しかも名簿名で呼んでしまうとは……
「おいマサシ! 何か勘違いしてないか?」
原の兄貴はドスの効いた声でマサシに言った
マサシは、はっとした。失言に気づいて
訂正しようとするものの
とき既に遅く、原の兄貴はマサシを白けた目で見つめていた。
マサシは幹部たちの前でドジをして冷や汗をかいている。マサシは寺井に土下座し、
「言い違えました。すいませんでした。カシラ!」
そんな表面的な言葉で上下関係に五月蝿い原の兄貴は納得しないだろう。ヤクザの世界は土下座は御法度だ。誠意を示す態度なら指の一本は差し出せる。土下座で済まそうとするのは謝罪の為に捧げる物がない、と言っているものである。何より土下座は男らしいない、。サラリーマンでもできるのだからヤクザは土下座を嫌う。
しかし、土下座は
滅多に見れるものでもないから、何故土下座がいけないのか理解できてないヤクザは多い。
マサシはきっと、これまでの人生で土下座を強要してきた側で、それはある意味、失敗を犯した経験がないエリートで、もしかしたら土下座するのは初めての経験なのかもしれない。
元来優秀であるならの、些細な失敗であるなら、これくらい多めに大目に見ても……
------------------------- 第6部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
根性焼き
【本文】
原の兄貴はタバコに火を着けて一服しはじめた。
部屋が静まりかえる
まさか
こんな些細な失敗で根性焼きをするのか(根性焼きとはタバコの火を顔とかに擦り付けること
やはり平井組。最前線の兵隊だ。部下の支配は徹底的してる。
原の兄貴はタバコの火を持ち変えマサシに近づいて
「まあ、今回のは多めにみてやってくれんか?」
原の兄貴は呟いた
「新しいシノギに挑戦できる!言うて、マサシも、舞い上がっとったのや、なあマサシ」
マサシは土下座したまま頷いた。
原の兄貴を立てる為にも許さなければいけない。寺井としては許すもなにも最初から怒ってはいない。原の兄貴と幹部たちから、ピリピリとした敵意の様な空気を感じ取ったから、協調して怒ってる様な振り従っただけであった。
「もういいから。土下座はみっともないから辞めてくれ」
寺井の言葉にゆっくりと立ち上がるマサシは、もう一度謝罪し、お辞儀をした。
「すみませんでした!」
まるで自衛隊隊員がやるような迫力あるお辞儀をしたマサシ、どんな時でもヤクザはこれが正解である。分かってるじゃないかマサシくん! 5ポイントあげちゃう!
------------------------- 第7部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
ふに落ない
【本文】
それにしてもふに落ない。ここは兵隊の集まりで土下座はありえない、ましてやマサシは平井組のナンバー2になる男だ。上下関係に誰よりも厳しい原の兄貴が、しっかり教育してても良さそうに思うのだが……
「なんか気づかんか?」
原の兄貴が寺井を向いて呟いた。
「土下座はマサシにとっては挨拶なんや」
「マサシは土下座しながら、自慢しとんのや」
「手をよう見てみい」
マサシの手をみると両方共義手だった。一見すると義手に見えないくらい精巧にできた義手だ
原の兄貴はマサシの手を取ると、寺井にマサシのこれまでの武勇を語って聞かせた。武勇伝の中には失敗したものも多々あり、たとえば、敵対ヤクザにスパイとして潜り込みヘマをした話。縄張り争いでボコボコにされて拉致監禁された話。土下座で失敗して指を切断された話。美人局で失敗して泣きながら、おもらしした話
マサシは、あらゆる修羅場をくぐり抜けてきた際に、失敗を沢山した。ヤクザとして誠意を示す為の指詰め儀式で、指を全て使いきってしまったのだそう。
マサシが土下座して手を前に出すのは、相手にそれが見えるだろうと思ってのことで。そしたら驚くだろう。相手がそれに気付いたら自慢してやろう。という思いから、土下座をしてしまうらしい。
マサシが個人的に自慢したいが為に安易に土下座をするようになった経緯もあって、平井組では土下座に見慣れて慣れてしまい、土下座自体をタブー視する文化はなくなったのだそう。マサシにとっては土下座は挨拶のようなものであり、謝罪の意が一番込められていたのは、自衛隊式の礼の方だった。
平井組のカシラになる就任初日から寺井は、あらゆる勘違いをさせられてしまった。平井組の旧幹部たちは、引退すると見せかけてシノギの一部を取り続けるつもりだし、一瞬でも支配者側になれるかと、寺井はヌカ喜びをしてしまった。
------------------------- 第8部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
滑るオレ、言い訳のオレ
【本文】
それにしてもマサシ
初日から頭の寺井より目立ってる。部下の癖してして、大将より目立つとか空気読んでない。 原の兄貴にも可愛がられまくってるから、オレの立場かない。
頭として舐められてるみたいで、不安になった寺井は、マサシの自衛隊式挨拶
「カシラ! これから宜しくお願いします!」
に合わせるように自衛隊式を真似た。
寺井「今日から俺の事は教官と呼べ!」
かなり高圧的に答えた。
原の兄貴「カシラとしての笑いのセンスないな」
頭としての笑いのセンスって、なに? そんなもんいらねーし
原の兄貴は芸人目指してるから、目が肥えてるだけだよ。オレの笑いのセンスわかってくれる人、この世のどこかに居ると思うし、
滑ったから言い訳したとかじゃないよ!
受けてないからって、笑いが取れなかったからって人間性とは、関係ない
いいもん! これはあくまで俺なりの挨拶だもん! 理解なんて求めちゃいないもん!
どのみちビシビシやるつもりだ。なんせオレが社長だし! 偉そうにしとかんと部下に「あ、この人仕事への自信がないんだな」なんて思われかねない。
会長(カシラのカシラ)から仕事を預かった以上、結果ださないとね。部下に給料払えんかったら、それこそ海に沈められるから。
ヤクザな世界では失敗は指切りが当たり前。 気を引き締めていかないと。
------------------------- 第9部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
指切り豆知識
【本文】
ヤクザが指切りをするのは、指がないことで、一般人として一般社会で生きにくくさせる為のもので、つまりはヤクザ世界に一生縛り付ける為のもので……
作品名:ヤクザ、VRゲームにハマる! 作家名:西中