悩める熟年世代、VRゲームにハマる!
川の様に流れるソーメンの中で、藤井は泳いでいた。
「清十郎君もどうだい? ソーメンがまとわりつくのは気持ち良いよ?」
後から聞いた話では藤井は清十郎とトーナメントの対戦で、手を抜きまくっていたらしい。余りにもレベルに差が有るそうで、華麗な殺陣を魅せて大衆を沸かせていた。
「ソーメンが体の穴という穴に入ってくるよ? どうだい清十郎君? 君にも入れてあげようか?」
人というものは何か一つ秀でた物があると、それを相殺するくらいの致命的な欠点を持つのかもしれない。
しかし、藤井のキャラ結構なイケメンキャラなので
さっちゃんが目をランランとしている。
次回作の構想でも考えているのか、さっちゃんが、ソーメンにまみれた藤井をカメラで撮影し始めた。
「君はもしかして、あの時の……」
「はい、そうです! あの時は有名人だなんまったく知らなくて、今またこうして会えてビックリしてます!」
「そうかい、そうかい、僕もまた君とこうして会える日が来るのを楽しみに待っていたんだよ。なぜなら僕はロリコンですから、君に会えるのを心待ちにしていたんだヨ。」
「ロリコン? ま、ま、まじに!?」
「どうだい? 僕と子供作るかい? 」
「え!!」
「大丈夫、あくまでパーチャル出産だから、リスクはありませんよ?」
さっちゃんは、ロリコン体型だが、ロリコンが好きな訳ではない。
'ロリコンが好きなロリはいませんよ? 'そう言おうとしたら、さっちゃんの母親(ロリコン体型キャラ)が、割り込み
「わ、わ、わたし、ど、ど、どうですか? オカネくれるなら全然オーケーですよ?」
西中さんは、娘の実家の牧場を買収して、倒産させたい。そのカネを必要としている。
「なんか年を鯖読むオバサンが言いそうなセリフだな」
さっちゃんの母は37歳の大晦日生まれなので正解。
西中さんは食い下がらない
「じゃあ、バイトかなにか紹介していただけないでしょうか」
必死で掴もうとする西中。藤井の資産は200億以上ある。おいそれと藤井との人脈を失いたくない。
「じゃあ、そこにいる、さっちゃんに僕の子供を創るように説得してよ」
「そ、それは…」
それは親として出来る訳が無い。
「10億払うよ?」
バーチャルセックスといえど子供を売るような真似はできない。西中は気是とした態度で拒んた。
「こういうのは、さっちゃんの気持ちが大事ですし、こういうのは大人になってからの方が良いと思います」
「では50億なら?」
藤井が即質すると、流石に、さっちゃんの心が折れたのか
「50いいですよ。その代わり、約束は必ず守って下さいね」
さっちゃんは、金に落ちた。10億では落ちず、50億まで値を釣り上げる根性は、ぜひ大人も見習いたいところだ。
だが藤井は「冗談ですよ?」と一言いい、何処からとも無く麺つゆを取り出し、ソーメンをすすり始めた。
笑えないジョークに、さっちゃんはガッカリした。
「2億もあれば喜んで、やりますが……」
静まり返る場の空気、コロシアムでも藤井は無双だったが、笑いのセンスも無双だった。
心なしか藤井の顔から笑顔が消えた。ギャグが滑った事に相当落ち込んでいるみたいだ。
空気を察したのか、さっちゃんが、手作りのロボットを取り出した。ロボットは、藤井のキャラを模したもので、等身大で、キャラに向かって愛を囁くと、それに応じて愛を囁き返してくれるという。何度も愛を囁くと自律した心が見栄えて恋人役になるそうで、つまり藤井でホストアンドロイドを作りプレゼントしたのだ。
「これは! 美しい!」
藤井の目が輝き始めた。藤井はナルシシストであった。藤井は藤井人形を抱き寄せると
「 君はなんて澄んだ瞳をしているんだ! その目で見つめられると、僕はもう、君を愛せずにはいられない……」
何はともあれ、さっちゃんのプレゼント作戦は成功した様で、つつがなく、その後のパーティーは進行された。
〜清一視点〜
朝8時、清一は父親が会社に行ったのを確認して、部屋から出てきて冷蔵庫を開けた。食べるものは既に食卓に並べてある。以前の父は「自分ことは自分で」といい、こんなことをする父親ではなかったが、今は大きく違う。親に心配され愛されてるのを実感していた清一は、仏壇の前で母親の写真を見つめた。清一が引きこもるキッカケとなった母親だ。父親は決して気付かないだろうが、清一は母親が全てだった。
マザコン清一。
恥ずかしくて、そんな素振りは母親にも誰にも見せなかったが、母親が死んでから、もっと甘えておけば良かったと、清一はいつも心の中で後悔していた。
本格的に引きこもる原因として、心を病んでしまったのは、父親の一言からで、「母さんは天国で私達を見守っている。恥しくないように生きないとな」
父親は慰めの言葉として、ありきたりだが、まともそうなセリフを選んだつもりなのだと、その時の清一は感じた。
しかし、とにかく清一の心には届かなかった。最愛の人が居なくなり、心が崩壊しかけていた矢先に、漫画やドラマで使うようなチープなセリフに清一は、どう返していいか困った。
清一はその時泣いていて、父は泣いてなくて、清一がその時感じたのは、 母に対する思いの違い、心の温度差であった。
家族なら家族への想いは同じで一致しているはず、清一は、その時から父親が家族とは思えなくなっていった。
結論からいうと
清一はその時から、父親を《血のつながる赤の他人》の様に思うようになってしまった。
母に対する思いの違い、心の温度差について、清一自身は無意識に感じ取っている。だから、それが一般的な価値観とは異なるとしても清一はそれを自覚できなかった。
清一は極論して「父親は妻を愛していなかった。清一の母を愛していなかった」と思い込み、父親に対する不信感を募らせていった。
清一自身、その不信感を解消しようと思わなかった訳ではない。しかし、受験や進路を控えた多感な時期であったし、父親は仕事で忙しかったから、清一は時間に追われて、不信感を解消しようとは思わなかった。父も、まさか清一が、不信感を募らせているなんて、思いもよらなかった。
清一自身、まさか、父親を殺したくなる程憎くなるなんて、その時は思いもよらなかった。
しかし、時を重ねるにつれ徐々に清一の心に中にある父への不信感が育っていったのは事実で、その詳しい心の仕組(メカニズム)は専門家でないと分からないのかもしれない。
とにかく、清一は父親に対する不信感を次第に憎悪に変え、殺意に変え、悪意の感情と折り合う生活をする様になっていった。
清一は父親を愛していたからこそ、悪意を抑え込み、復讐心を暴発させない様に努めていた。
清一は心の中で、いつも父に対する愚痴をセリフにしていた。
たとえば
「母親が死んだのは、そもそも父に甲斐性が無いからで、母を働かせていたからストレスで病気になって逝ったのだ。」
作品名:悩める熟年世代、VRゲームにハマる! 作家名:西中