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北へふたり旅 66話~70話

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  北へふたり旅(69) 函館夜景④

 金森赤レンガ倉庫は、港町・函館を代表する観光スポット。
ガイドブックでかならず紹介される
外観はとにかく大きい。迫力もあり、どこか異国情緒がただよっている。
色褪せたレンガが経てきた歳月を物語る。
とにかく写真によく映える。

 しかし。一歩足を踏み入れて驚いた。
ちいさなお店がやたらゴチャゴチャ並んでいる。清潔感がない。
雑貨屋風のお店がやたら多い。

 「雑貨屋さんばかりですねぇ。
 洗練されたお洒落なお店がたくさん入っていると、期待していました。
 あてが外れたと言うのでしょうか・・・
 異空間です。此処は」

 「此処だけかもしれない。ほかの棟を見てみよう」

 手をつないだまま、出口を探しはじめた。
手をつないだまま?・・・
手をつないだままこんな風にあるくのは何年ぶりだろう。
妻はまったく離そうとしない。
それどころか妻の身体が、わたしの左手へ密着しはじめている。

 ようやく出口が見つかった。
表へ出た瞬間。妻が赤レンガ倉庫のはるか上へ目を向けた。

 「函館山の夕焼け」

 函館山の峰に夕日が沈んでいく。

 「いいわね。夕焼け空に向かって散歩しましょう」

 期待外れの赤レンガ倉庫はもう充分・・・と妻がつぶやく。

 「山へむかうぞ。けっこうな傾斜がある」

 「函館は坂の街です」

 「坂の街?」

 「坂から見下ろす海の景色が素敵です。そんな坂が此処には19もあります。
 突き当りまで歩きましょう。
 そこから左へ曲がれば、ホテルから見えた二十間坂へ出られると思います」

 「二十間坂?。窓から見えたあの坂道か?」

 窓から石畳のひろい坂道が見えた。
ひろいのに、車道は1車線だけ。
バスが2台並んで走行してもまだ道幅があまる。
さらに緑の植え込みが、坂の左右につくられている。
二十間、36mあるという意味だろうか。
それらしい幅は遠くから見ても、じゅうぶん感じ取れた。
 
 石畳ののぼりを函館山へ向かう。
傾斜がだんだんきつくなる。ここはもう函館山の山麓だ。
このさきに334mの山頂が有る。
 
  突き当りまで歩き、そこからはじめて振りかえった。
「うわ~」と声がでた。
気が付けば手をつないだまま、かなりの高さまで登ってきている。

 あしもとからのびる下り坂の先。
石畳の道路の左右に、ライトアップされてうきあがる赤レンガ倉庫と、
紺碧から漆黒へかわりはじめた函館湾がひろがっている。

 「やはり素敵ですねぇ、港町のこの景色は。
 ぼくは死ぬときは函館で死にたい、と書いた啄木の気持ちが
 よくわかります」

 妻が指先へさらに力をこめてきた。
ホテルを出て歩きはじめた時から、わたしたちの手はつながれたまま。
闇がおりてきた函館の空のした、妻の指がかつてないほどあたたかい。

 「26年のみじかい生涯のうち啄木が函館に住んだのは、わずか4ヶ月。
 函館のなにが気に入ったんだ、啄木は?」
 
 (70)へつづく