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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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その夜、僕は宿の布団の中で美鈴さんの隣に寝転び、こんな話をした。窓の外から風の音がしていて、小さな囁き声が温かい布団に隠されていた。

「もしかしたらさ、二人でゆっくりする時間が、これから先はほとんど取れないかもしれない。だから、余計に、ちゃんと祝ってあげたかった」

「うん、ありがとう」

美鈴さんは布団の中で、僕の腕を優しく撫でる。彼女からは、洗い髪を乾かしたばかりの温かそうなシャンプーの香りがした。

「それから…卒業して、会社に入社して、研修が済んだら…僕はしばらく日本を離れることになる」

これは実は前々から父さんに言い渡されていたことだけど、美鈴さんに言うのは初めてだった。美鈴さんは僕の言葉を聞いて、ちょっと布団の中でうつむいた。

「…そうなんだ」

返ってきた彼女の声は少しか細く、でもわかってくれるのか、震えてはいなかった。

「事業を学ぶには、それが必要なんだ」

「うん」

「でも、その期間は家族に聴かれる心配もないから、毎晩電話するよ」

僕はそれを言ってから、彼女の頭をゆっくり撫でて、少し自分の胸に引き寄せる。布団との衣擦れの音がやけに大きく聴こえて、それから、温まった彼女の柔らかい肌、頼りなく小さな肩を抱え、今はもうぎゅっと抱きしめることができた。

「二十歳、おめでとう」

そう言って美鈴さんの顔を覗き込むと、彼女は幸福そうに見えた。静かで優しいこの時間が長続きしないことが切なかったから、彼女の表情を推し量ろうとしたけど、美鈴さんの瞳は酔いしれたまま、ゆらゆらと揺らめいていた。

「ありがとう」

美鈴さんはそれから嬉しそうに笑って、布団の中から、クマのぬいぐるみをぴょこっと覗かせた。

「あっ…今、写真撮ってもいい?」

僕は、布団に包まれてテディベアを抱きしめる美鈴さんを、写しておきたかった。

「えっ、いいけど…ちょ、ちょっと待ってね」

そう言いながら美鈴さんは、女の子らしく、慌てて手櫛で髪を整え始める。それから、少しはだけていた浴衣の前を合わせて、僕がスマートフォンを取りに行っている間に、彼女は布団に肘をついて半分だけ起き上がっていた。

僕は美鈴さんの隣へと戻って二人でテディベアを抱えると、一緒に写真を撮った。それをすぐに見直して、「これもプリントしに行こうかな。僕が向こうに持って行きたいし」と僕がつぶやくと、美鈴さんは、静かに「うん」とだけ返事をして、テディベアに抱き着いたまま、そのうちに眠ってしまい、僕も隣で眠った。