小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

馨の結婚(第一部)(1~18)

INDEX|69ページ/73ページ|

次のページ前のページ
 

第十八話 君の誕生日









僕たちは寒い冬の日、美鈴さんの二十歳の誕生日を祝った。それは僕たちが大学で二年次に進む少し前のことだった。

美鈴さんの誕生日は一月の四日。


父さんには、「来年は会社のことでもっと忙しくなりますよね」と聞き、「もちろんだ」と返ってきたので、「じゃあ思い出に、お正月に大学の仲間と旅行に行きたいです」と言って、「まあいいだろう」というお許しを得た。


僕たちは時には学校で会った時に、次の講義を待つ間、二人で僕のスマートフォンを覗き込み、行く道、泊まる宿、観光する場所などを二人で楽しく話し合っていた。

僕たちは、都内からそう離れても居ない、静かな旅館に一泊だけすることに決めた。




僕は美鈴さんの誕生日前日に、執事の公原さんが荷造りを手伝おうとしてくれたのを断って、小さめの黒いトランクに着替えや手回り品、それから必要になるものをあれやこれやと詰め込んだ。それから、薄い不織布でできた袋にリボンが掛けられた、少し大きめの包みも一緒に。


翌朝、僕は朝食を早く作って欲しいと頼んでおいたので階下に降りたけど、父さんは前日から帰宅していなくて、母さんは出かける身支度を整えているらしかった。

僕がトランクを引いて出ようとした時に、公原さんに「明日には帰ります」と言い残した。公原さんは、不機嫌そうにこちらを睨みながら、「お気をつけて行ってらっしゃいませ」と言っただけだった。


僕は家から解放され、美鈴さんの待つ駅まで、電車内で乗客の人たちから邪魔そうにトランクを睨みつけられながらも、二度地下鉄を乗り継いで、目的の駅前バスロータリーへと着いた。


美鈴さんと僕はトランクを積み込んだ観光地への高速バスに揺られ、途中何箇所かに停車をしてから、僕たちが降りる小さな駅の前に着いた。

夜の内にだいぶ冷えたのか、とても寒く、つんと澄んだ空気が鼻を刺すほどで、僕たちは白い息を吐きながらトランクを引いて歩き出した。

宿への道まで少しなので駅前から歩いていると、冬でも元気な草花たちが刈り込まれないまま歩道を横切ろうと伸びていたり、それから、どっしりと構えて道案内をするような背の高い木々が僕たちを迎えてくれた。

少し曇った空にもうだいぶ高くなった太陽が昇り、それは、ビルの突き刺さっていない空で悠々と深呼吸をすることで、僕たちに息吹を与えてくれた。

僕たちはすぐに山あいの道に折れ、やがて石畳の敷かれた宿の玄関口に吸い込まれていった。




旅館は静かだった。玄関の広い土間の向こうは小さめのホールになっていたけど、板張りの床の絨毯の上に大きめの籐椅子がいくつか置いてあるきりで、梁が渡された天井も低く、あとは小さなテレビが壁際にあった。

部屋に案内されるまでには五十歩も歩くことはなく、僕たちは十字路になった最初の廊下を左へ曲がり、一番奥にある、「葵の間」へ通された。

「お食事は五時から先ほどの玄関ホールを抜けまして、お風呂の先にございますレストランにお越し下さい。露天のお風呂は少し離れておりまして、ホールに出口の案内がございますので、一旦外へお出になって通路に沿って進んで頂きますとございます。それではごゆっくりと」

そう言って、僕たちを案内してきた薄桃色の着物に白い幅広の帯を締めた従業員さんは、襖を閉めた。


「いいところだね。えっと…寒いし、お風呂でも行く?」

「あ、うん、私はちょっと荷物を出してから…」

「あ、そっか。僕もそうする」

僕たちは旅館に着くまではわくわくとしていたけど、いざ好きなだけ二人きりで居られる場所に放っておかれることになった途端、少し緊張してきた。お互いにぎくしゃくとしながら荷物をほどき、スマートフォンの充電器を差すコンセントを探したり、意味もなく旅館のテレビで見られる無料の映画などを探したりしていた。

「あ、えっと…じゃあ、そろそろお風呂、かな…」

美鈴さんはなぜか真っ赤になっていて、僕もつられて頬が熱くなり、小さく「うん」と返事をしてから、洗面用具を持って二人で部屋を出た。