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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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小さな美鈴さんの手のひらには、確かに彼女の体温があった。僕は、それを守ると決めたことを思い出して、無意識に強く手を握る。


そうだ、彼女に言わないと。


「馨さん…?」


「昨日…体調を崩していたのに、会いに行けなくてごめん」

「あ…」

美鈴さんは、僕がそう言うと、少しうつむいた。多分、昨晩は僕のことを気遣ってくれて、本当の気持ちを僕に言うのを堪えていたことを思い出したんだろう。

「僕は、君がさみしいだろうと思った。会いに行けないのが、悔しかった」

「馨さん…」

僕が素直に口にしたことに、彼女は驚いているようだった。そうだ、言わないと伝わらないことばかりなんだ。


でも、もし、いつでも伝えられるものがあったら…。


僕はそう思って、急にあることを思いつき、思わず「あっ!」と叫んでしまった。

「えっ、ど、どうしたの?」

僕が大声で叫んだので、美鈴さんはびっくりしてちょっと身を引いた。でも僕は自分の思いつきに興奮してしまって、そのまま美鈴さんのもう片方の手も握って、止まらず喋り続けた。


「そうだよ美鈴さん!指環を作りに行こう!」


そう叫んだ僕の声で、学生ホール全体が、たった一瞬だけど、ふっつりとテレビを消したように静まり返った。

「あっ…!」


とんでもないことをとんでもない所で叫んじゃった!


そう思って僕が急いで辺りを窺うと、今度はちょっと目が合うだけではなくて、僕たち二人に注がれる、はっきりとした注視が何人分も見て取れた。

ぎょっとしている人、にまにまと面白そうに見ている人、呆れているらしい人…。

僕は顔から火が出そうになり、そのままそろりそろりと、元々座っていたベンチに小さく縮こまって座り込んでしまった。美鈴さんも真っ赤になっていたけど、とりあえずは僕の隣に腰掛けてくれた。

「えーっと…仕方ないって。思いついたの、本当に今だったんでしょ?」

「うん…ごめん…」

僕はもう自分の顔をここで晒しているのが恥ずかしくて堪らなくて、両手で顔を覆って俯くしかやることがなかった。美鈴さんが僕を慰めようと、ふふふ、と嬉しそうに笑う声が聴こえる。

「私だって恥ずかしかったけど…うん。うれしいよ。行こうよ」

「うん…」

「じゃあほら、講義に遅れちゃうから、もう行こ?」


僕はその場から動くこともできなくなっていたので、立ち上がる時には美鈴さんに手を引っ張られていた。