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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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第十六話 とんでもないところで











「馨!早くしなさい!いつまでグズグズしているんだ!」

「はいただいま!」

僕はその日、朝早くに起きたので体調が良くなく、支度に手間取っていて家を出るのが遅れてしまった。それに父さんは激怒し、「時間も守れない奴は社長どころか入社すらさせる気はない!よく覚えておけ!」と車に乗ってから僕を怒鳴りつけた。

でも、僕はそれを聴きはしても、あまり怖がらず、「体調管理をしなくちゃ」と思うようになっていた。


そしてこの日、もっと大きな決意に僕は出会うことになる。




工場視察に行く父さんについていくことになっていたけど、製鉄所は沿岸に位置しているので、作業員たちが出勤してくる時間に合わせるには、かなり朝早く出なければならない。

僕は朝食を食べる時間がなくて、移動中の車で、おなかを鳴らしてしまった。それで父さんの手前、窓の外を見やってごまかそうとしたが、高速道路を降りて湾岸を走る道に抜ける前、父さんがちょっと笑って「ダッシュボードを開けてくれ」と言ってきた。

「は、はい…」

大きめのゆったりしたダッシュボードを開けると、メロンパンが二つ入っていた。僕はきょとんとしてしまい、「これを出すんですか?」と手に取って、一つを父さんに渡した。まさかメロンパンを二つ食べるだろうとは思わないし。

「悪いが封を開けてくれ。それと、もう一つはお前のものだ。食べなさい」

「えっ、ありがとうございます…」

「何、私も鬼じゃない。食事の時間が取れるかくらい、見計らうさ」

僕がちょっと怯えていたことに気づいたのか、父さんは僕の肩を叩いて笑った。僕はそれで少し安心して、父さんの分の袋を開け、自分もメロンパンを食べた。

甘くて美味しく、それは十分空腹を満たしてくれた。

「社長というのはな、馨。自分の生活に取れる時間は極端に少ない。だが、生活を疎かにするな。必ず仕事が疎かになる」

「は、はい!」


僕たちは朝日が昇り、明るい光の差す海を左手に見て、遠くにある、煙を上げている煙突が何本も突き刺さった灰色の工場を目指していった。