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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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その夜、僕たちは暗い部屋で、街の人々からも、空に昇った月からも隠されながら、約束を交わした。


暗がりで、僕たちを包む布団は、灰色のような薄紫のような色をしていた。


僕たちは手を繋いで、キスをした。


美鈴さんが僕を見つめる、潤んだ二つの綺麗な瞳だけが、月光に洗われるように浮かび上がり、僕は必死で彼女の姿を焼きつけ抱きしめた。


胸の熱さは、増していくばかりだった。


ずっとそうして居たかったけど、僕は家に帰らなければいけなかった。






「それじゃあ、僕は帰るけど、アルバムは美鈴さんが持ってて」

「うん…」

離れることが美鈴さんは不安なのか、パジャマを着て僕を見送る時、悲しげに眉を寄せて僕を見上げる。

僕は、言葉などで彼女が安心するような気にはなれなかったけど、なんとか彼女を支えたくて、小さな体を両腕で包んで囁く。

「大丈夫。必ず君を迎えにくるし、また会える」

僕の胸の上で彼女が泣くので、僕のTシャツには涙が染みて、温かくなった。

「それに、学校でも会えるし」

「うん…うん…」

ちぎれそうな涙声で、彼女が必死に返事をして、僕の背中に回された彼女の腕は、震えながら強く僕を抱く。

やっと不安な気持ちを吐き出しているように、彼女の涙はしばらく止まなかった。

僕は彼女の髪や背中を撫でて、僕と離れるのが悲しくて精一杯泣いてしまう彼女の愛しい体を、できるだけ強く、それでも彼女が苦しくないようできるだけ優しく、抱きしめた。




「待ってる」

しばらくして彼女は気持ちが落ち着いたのか、静かに微笑んでいた。

「うん。必ず」

僕も満たされた気分で、それからわずかに使命感を感じながら、そう言った。

「おやすみ」

「おやすみなさい」




短く別れを言って僕が外に出ると、Tシャツに染み込んでいた彼女の涙がどんどん冷えていき、体に染みた彼女の温もりが、夏の夜に吹く風にさらわれていくのを感じていた。


でも同時に、胸に燃える彼女への愛情は、前にも増して強くなっているのがわかった。