小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

馨の結婚(第一部)(1~18)

INDEX|59ページ/73ページ|

次のページ前のページ
 






四十枚入りの写真アルバムに入れられたのは三十二枚だったけど、海でのお互いの水着姿や、僕が撮った食事をする美鈴さん、美鈴さんと寄り添って撮っていたデート記念のツーショット、僕が美鈴さんの部屋に初めて来た時に二人で撮った写真などが入れられた。

僕はその中から、部屋で二人で写っている写真を抜き取り、カメラ屋で買ったフォトスタンドに差し込んで、「こうしよう」と言って立ち上がる。そしてそれを、美鈴さんの勉強机の隅に置いた。

「いいね」

美鈴さんは嬉しそうに笑って、しばらく勉強机の前で膝をついて机に掴まって、フォトスタンドがそこにある様子を見ていた。


でも、ふっと彼女は机にもたれて肩を落とし、うつむいた。それは後ろから見てもはっきりわかって、机にぼんやりと寄りかかっているようだった。僕が何か言おうとする前に、美鈴さんは背筋をぴっと伸ばして、こちらを振り返る。僕はその時とても驚いた。

美鈴さんは、泣きそうになるのを堪えるように、眉と唇を震わせていた。でも、それはすぐに止んでちょっと美鈴さんがうつむいてから顔を上げる。

美鈴さんの両目は凛と尖って僕を見据えていて、唇はやや口角の上がった、挑戦的な目線だった。

僕が美鈴さんの様子に押されて何も言えないでいる間に、美鈴さんは目を見開いたまま口元で笑った。

「私のこと放っておくんだから、立派な社長にならなきゃダメだよ」

僕もちょっと彼女の表情を真似て、笑ってみた。

「…もちろん。でも、放っておくつもりはないよ。大好きだもん」

僕がそう言うと、美鈴さんはちょっと赤くなった。それからゆっくり立ち上がって、僕から顔を逸らしたまま、キッチンへと向かう。

「…カレー、作るね」

「うん」




僕たちはまた一緒にカレーを作ったけど、二人ともあまり喋らず、美鈴さんの部屋には穏やかな愛が漂っていた。

「はい、できた。食べよう」

「うん、美味しそう」

「私、先にお鍋洗っちゃうから、カレー持ってってね」

「はーい」


僕がテーブルの前で胡坐をかいて、カレー皿からスプーンでカレーを掬っては口に運ぶのを繰り返していると、美鈴さんが突然、「新婚みたい」と言った。
僕が慌てて顔を上げると、美鈴さんは、「顔、赤いよ?」と言ってくすくす笑っていた。




僕たちがカレーを食べ終わり、美鈴さんがお皿を洗って、僕がそれを拭いて棚にしまうと、二人とも、もたついた時間を持ち込んで、ベッドの上に腰掛けた。そうしてそのまま壁に背中を預けて、今まであった、楽しかったことを話していた。

学校でのこと、図書館でのこと、初めて会った時のこと…。


美鈴さんは最後に、海で過ごした時のことを話した。彼女はベッドの上で膝を抱えて、膝頭に唇を押し当てて、うっとりとした目を布団に落としたまま、喋り出す。


「海行った時ね、私…実はちょっと恥ずかしかった」

「なんで?やっぱり水着になるのが?」

「それもあるんだけど…沖の手前で、キスしたでしょ?海水浴場だし、誰にも見えないくらい遠かったのはわかるけど、やっぱり…」

「そっか…今は?」

美鈴さんが、自分の膝にくっついたまま首を振る。僕は顔を近づけて、彼女の肩を片手で抱いた。

「じゃあ、もう一度してもいい?」

そんな話をして、またキスをして、手を繋いで。


美鈴さんは、夢を見ているように目を細めて、僕だけを見つめていた。部屋の空気は、彼女の髪の香りで満ちていた。


僕は、僕たちのほかに誰も居ない部屋で、素直に彼女に近づけた。でもその近い距離に堪えられないくらい僕の心臓は跳ねていて、「こんな状態がもしずっと続いたら、僕は死んじゃうかもしれない」と思った。