馨の結婚(第一部)(1~18)
第三話 遊びに行きませんか?
僕の目の前にはほとんどを食べ終わってしまったカレーライス。そして彼女の前には、同じく食べ終わりかけのAランチがある。
だから僕はこれを早く言わなければいけなかった。
彼女と友達になれたら、多分僕は初めにこう言いたかったんだと思う。
「あの、それで…お願いがあるんですけど…」
食堂のざわつきがなんだか耳にうるさい。僕の声はとても小さくなって、それでも大きな声では言えない気がした。
「なんでしょうか?」
僕の声が小さくてよく聴き取れないからか、彼女は食事を中断したまま、僕を見つめてくれていた。
「あの…勉強、教えてくれないですか…?」
「えっ…?」
彼女はきょとんとして僕を見ている。
僕には、「自分は勉強が上手い方だ」という自負があった。でもそれは、彼女に打ち砕かれてしまいかけている。
だから僕は、彼女と切磋琢磨することで、自分を更に高め、彼女と交流を続けたかった。
「僕、入試でトップを目指してたんです。でもそれはあなただった。だから、あなたから学びたいんです」
そう言って彼女を見つめると、彼女はおどおどと恥ずかしがっていたが、やがて、「いいですよ、私でよければ」と言って、嬉しそうに笑ってくれた。
そして僕たちは、スマートフォンでSNSアプリを立ち上げて膝を突き合わせて、「友だち」登録をした。
彼女の名前は「園山美鈴」さんだった。本当に、鈴のような高くてころころした、綺麗な声だよなあ、と、僕は思っていた。
作品名:馨の結婚(第一部)(1~18) 作家名:桐生甘太郎