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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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僕は自分を勇気づけ、震えそうになる喉をなんとか抑えてから、口を開く。

「あの…僕、あなたの入学式の挨拶、聴きました…」

彼女はちょうど生姜焼きを口の中に入れたところだったので、僕を見て驚いた後、片手を前に出して「ちょっと待って」の合図をして、一生懸命に口の中のものを飲み下そうとした。

「あ、急がないで!ゆっくり飲みこまないと、詰まりますから!」

僕も慌てて彼女にそう言う。彼女はゆっくり生姜焼きを噛んで飲み下してから、僕を見てまた笑顔になってくれた。それはちょっと恥ずかしそうに頬が染まった、かわいい笑顔だった。

「…ふふふ、なんか恥ずかしいです。そう改めて言われると…」

「あ、すみません…」

「いえいえ。覚えていてくれる人がいたなんて、ありがたいです」

「そんな…だって…」


僕たちが少しだけ打ち解けた雰囲気になると、僕は、彼女についてどう思っているのかを、どうしても話したくてたまらなくなった。


尊敬していること。憧れていること。それを伝えて、どうにかしてこの騒ぎ立てる胸を鎮めたかった。


「…本当に立派な志を持ってこの学校に来たんだなって思って…長い間努力し続けたことも、すごく尊敬します。だから…」


彼女は僕の言葉をびっくりした顔で聞いていた。僕は一度言葉を切ってから、自分が言ったことを胸の中で反芻して、「自分はこの人に向き合いたいのだ」と感じた。


すると、体の緊張がピタリと止んで、僕の目はしっかりと彼女を見つめる。


「友達になってくれませんか?」


はっきりとそう言った直後に、やっぱり僕は後悔した。そして、また緊張が襲う。


どうしよう、木で鼻を括るように目を逸らされて、「いやですよ」なんて、つまらなそうに言われたりしたら。そんなことになったら、僕は立ち直れない!



僕は俯いて逃げてしまいたいのを我慢して我慢して、彼女を見つめていた。


沈黙がややあって、彼女は少しだけ顎を引いて上目がちに僕を見て微笑むと、「いいですよ、よろしくお願いします」と言ってくれた。



「あ…ありがとうございます!」





今にして思えば、なぜ僕はこの時、「友達になってください」なんて言ったんだろう。


体中が喜びに震えて、胸がしめつけられて時めくのも、頬が熱くなるのも、「尊敬する人を前にしているからだ」と思っていたからかもしれないけど、僕たちはとにかく、「友達」から始まった。