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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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「あっ!かき氷!あっちにフランクフルトと、お好み焼きもあるよ!」

浜に戻るとちょうど昼時だったので、僕たちはコインロッカーに戻って財布を取ってきた。美鈴さんは、海辺に出た途端に並んでいる屋台を目指して走って行ってしまった。転ばないようにと声を掛けて、僕はなんとなくゆっくり彼女についていく。彼女は焼きそばの屋台の前で立ち止まり、僕を待ってくれていた。

「焼きそばもあるよ?どうする?」

「僕はじゃあ焼きそば食べようかな。君は?」

「私はね、焼きそばと、フランクフルトと、それからお好み焼きでいいかな!」

元気よくそう言って美鈴さんが屋台を回る前に、僕は焼きそばを買った。



「いただきまーす!」

「いただきます」

僕たちは浜の隅にある岩場に腰掛けていた。美鈴さんが水着姿のままで、フランクフルトにかぶりつく。

「はい、お好み焼き開けたよ」

僕はお好み焼きのパックの輪ゴムを外して開き、割りばしと一緒に彼女に渡した。

「ありがと!んー!美味しいー!」

僕が海を眺めたり、彼女を見つめたりしながら焼きそばを食べる間に、美鈴さんは買ってきたものを残らず平らげてしまった。そうして満腹になったらしい彼女の頭に僕は手を乗せて、ちょっと撫でる。

「ん?何?」

彼女はお好み焼きのソースが付いた唇の端を、機嫌よくきゅっと上げた。

「…可愛いから」

僕がそう言って、恥ずかしいと思う気持ちを必死にごまかして笑ってみせると、美鈴さんは爆発しそうなくらい赤くなってうつむいた。

「なんか…今日の馨さん、積極的…」

「ん…嫌、かな…」

僕がそう言うと、美鈴さんは僕の手の下で首をぷるぷると振る。そして、薄く唇を開いたまま、しばらく黙って下を向いていた。


「…全然、嫌じゃない…もっと、してほしい…いつも…」


美鈴さんは一口ずつ勇気を振り絞るように、小さな声だけど一生懸命喋った。


「了解」


僕はもう一度彼女の頭を撫でていた。






帰りの高速バスの中で僕は、日常のしがらみを海の中に置いてきたような心地よい疲れを感じながら、座席に身を預けていた。美鈴さんは、はしゃぎ疲れて僕の隣で眠ってしまっている。

バスの窓からは、ちょうど僕たちが居た海が防砂林の向こうに見えて、大きな大きな太陽がアップルパイのように照り輝くのが見えた。それは美鈴さんの無防備な寝顔を照らして、彼女はいつの間にか僕の肩にもたれて幸せそうに眠っている。


「また、来ようね」


それから、僕も彼女の隣で目を閉じた。




僕はもう、なんの言い訳もできないほど、君が好きだ。そう感じながら。