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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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「えいっ!」

美鈴さんが僕に向かって思い切り両手を振り上げ、掬った水を掛ける。海水は思っていたより冷たくなかったけど、それでも水に触れるのは気持ちいい。水が弾けるたびに、潮の香りもつんと強くなった。

「やったな!」

僕も彼女に水を掛けた。彼女は嬉しそうに笑って細い腕でそれを避ける仕草をしながら水を浴びる。



それから彼女は急に後ろを向いて、波打ち際を走っていってしまった。僕はそれを知っていたように、喜んで追いかける。



水着姿の彼女は、時たま振り向いて僕を見つめ、僕を手招きしてはまた波を蹴って走っていってしまう。



彼女の綺麗な黒髪が濡れたまま揺れて、彼女の真っ白い肌が陽の光に無防備に晒される。彼女の笑顔は今、一番輝いていた。



僕はその惜しげもない美しさに、「君が好きだ、もう言い訳なんてできないくらい、恥ずかしがるのももったいないくらい、君が好きだ!」と叫びたかった。それは強い陽ざしが後押ししてくれたからかもしれないけど、僕の本当の気持ちだった。



やっと美鈴さんに追いついて、僕はその手を掴み、「少し、泳ごう」と言った。彼女は黙って頷いた。






沖まで出てはいけないので、海水浴場の海にはウキを結んだ縄が渡してあった。僕たちはそのギリギリまで泳いで、波の間に浮かんでいた。



不思議に思えてくるほど、一面をすべて紺碧に染められた海の中に君が居て、僕が居た。波がチャプチャプと揺れて、小さな泡が潰れる音が辺りに響き、頭の上を飛んでいく海猫たちが、はやし立てるようにみゃあみゃあ鳴いていた。人々が騒ぐ声は、遠くに聴こえる。



彼女は僕の前で頼りなく波に揺れていたけど、僕が手を掴むと、素直に僕に近づいて、肩に掴まった。彼女の結び髪や透き通るような肌が水に濡れて、突き刺すような光をきらきら返すのを見た。海の雫に飾られた睫毛に縁どられている大きな目が、僕だけを見ているのを、僕は見た。



太陽だけが知っていた。僕たちがキスしたのを。