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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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もうすぐ、更衣室から彼女が出てくる。僕はそれを、じりじりと焼ける夏の太陽から遠ざかった屋内で待っていた。ここは海水浴場の更衣室前の、静かな廊下だ。

僕たちは電車と高速バスを乗り継ぎ、人気の海辺へやってきた。僕はもちろん、彼女と海を楽しみたいという気持ちはあったけど、彼女を隣に連れて人ごみに出て、自分たち二人は恋人同士なのだと思いたかったし、それに、やっぱり水着姿の彼女を見てみたかった。


「お待たせ」

僕が顔を上げると、更衣室前の少し薄暗い廊下に、外へ出る扉の方からわずかに差し込む光に、ぼんやり照らされた美鈴さんが立っていた。

「どう、かな…?」

光の乏しい中、目に飛び込んできたのは、見事なシルエットだ。

ぴっちりした水着が、彼女の胸を重そうに支えている。それをじっと見てはいけないような気がして目を逸らしたかったけど、そんなことはできないくらい、彼女は魅力的だった。

それから、細い体の曲線がほとんどすべて晒されていて、それはどこか儚くて、思わず「守ってあげないと」という気持ちを起こさせた。

水着のデザインの、白地にピンク色のボーダーという可愛らしさも、体が小さい美鈴さんによく似合っていて、僕はちょっとだけ、これを選んだ自分を褒めてやりたかった。


「えっと…その…」


僕は、思ったことのうちのどれを言えば彼女に誤解されないのかがわからなくて、歯切れ悪く言い淀んでいたけど、なんとか「可愛い」とだけ言って、堪えきれずに両手で目を覆った。


「ありがとう。馨さんもそれ、似合ってるよ」






「わぁ…海だ…」

「うん…海だけど…」

海水浴場は絶好の晴天に恵まれ、さらに休日ということもあいまって、これでもかというほどの賑わい振りだった。

人、人、人。逃げ出したくなるくらいの人ごみだった。


潮干狩りにきゃあきゃあとはしゃぐ可愛らしい子どもたちと、その子どもに手こずりながらも幸せそうな母親、父親。それから、友達連れと思しき若い男性たちや、女性たち。あとは、その隙間を埋めるように、男女のカップルが寄り添い合ったり離れたりと、騒がしい幸福の光景だった。


でも、広い海水浴場の浜辺は、数えることもできないほどそれらの人々で埋まっていて、歩くのにも苦労しそうなくらいだ。


「人…多いね…」

「うん…」

僕たちはちょっとため息を吐いたけど、すぐに微笑み合い、手を繋いで波打ち際へと歩いて行った。