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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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僕たちは数日して、デパートの水着売り場に居た。

「あっ、サーフボードとかも売ってるね。行こう馨さん!」

「う、うん…」

僕は、女性物の水着が並んだ商品棚に近づこうとしたところで、足が止まってしまった。なんだか、「やましい気持ちを抱いています」と周りに言いふらすのと同じなんじゃないかとさえ考えて、なかなか美鈴さんについていけなかった。

「もう。相変わらず恥ずかしがり屋だなあ。大丈夫だって。行こう?」

僕を連れに来た美鈴さんは、そう言って僕の腕を引っ張った。






「ねえ、これなんかどうかな?」

美鈴さんが商品棚から水着を一着、ハンガーごと取り出して、体の前に合わせる。それは、白いビキニで、フリルの付いたものだった。僕は、彼女がそれを着たらさぞ可愛いだろうなと思って、つい恥ずかしくて目を逸らしてしまった。

「…似合わない?」

「えっと…」

僕が上手く言えずにいたから、美鈴さんは不安そうにこちらを見ていた。


「すごくよく似合うし、見てみたい」と言ってしまいそうになるけど、「見たい」なんて言ったら彼女に嫌われそうでなかなか言えなくて、僕が言おう言おうとしているうちに、美鈴さんは、また商品棚にぶら下げられた中から水着を選んでいた。


「うーん、じゃ、こっちは?」

次に美鈴さんが取り出してきたのは、紺色の生地に、白い水玉模様がプリントされたビキニで、首の後ろで縛るタイプだった。僕はその結び目を見て、つい変な想像をしてしまいそうになり、また目を逸らしてしまった。それでも、何かは言わないと。

「えっと…どれがいいのかとか…よくわかんなくて…」

僕が言葉に迷っていると、美鈴さんはぷくっと頬を膨らせて僕を見たあと、ちょっとしょげたようにうつむく。もしかして、変なことを考えているのが知れてしまったのではないかと、僕はすごく焦った。


「…ちゃんと考えて。私、馨さんに可愛いって思われたいもん…」


そう言った彼女は、自分が言ったことに赤面し、それから一生懸命に拗ねていた。


それを見た僕は、「君ならなんでも似合う」と言いたかったのに、あんまり彼女が可愛いもんだから、胸が詰まって言えなかった。


僕はとにかく彼女に可愛らしい水着を着せたくなったけど、言葉でそれを伝えたら、彼女に誤解されそうで怖かった。だったらあとはもう、行動で示すしかない。

僕は、すぐにそばにあった棚を黙ったまま物色して、なんとなくだけど、白とピンクの混じった水着を探した。美鈴さんはちょっと僕の様子にびっくりしたようだったけど、黙って僕のしていることを見守っていてくれた。


真っ白の上に散らされたピンク色。そんな水着を着た美鈴さんが見たい。

「見たい」とは言わなくてもいい。ちょっと、「これなんかどうかな?」と言うだけでいい。

そう思いながら、見ているだけで恥ずかしくなってくる色とりどりの水着を一つずつ調べて、ハンガーを棚の端に寄せていった。


あった!


僕は、棚にぶら下げられた中から見つけた、白い生地にピンク色のボーダー柄がプリントされた水着を、美鈴さんにゆっくり差し出した。恥ずかし過ぎて、まるで悪いことをしているような気分だった。

「これなんか、いいと思う」。なんとかそう言おうとした。僕の顔は、焦げそうに熱い。


「…こ、これ…」


言いたかったことの半分も言えなかったけど、美鈴さんはにっこりと笑って、「うん。それにする」と言ってくれた。