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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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少しずつ、ゆっくり美鈴さんの背中に腕を回して、僕より一回り小さい彼女の体を、ゆるやかに包み込む。ああ、ぎゅっと力を込めて抱きしめたいのに、優しく包んでいたい。どっちつかずの両手はふわふわとして、上手く力が入らない。



彼女の長い髪に触れて、少しだけ指を絡めてみる。そのうちのいくらかが、僕の指の間からするりとこぼれていってしまった時、僕は「彼女を守らなければ」と思って、そしてそれができるのかわからない怖さを感じた。大丈夫だと思いたくて、彼女の首筋に耳を当ててこすりつける。百合の花と、ミルクの香り。それは美鈴さんのシャンプーの香りだったとわかった。



抱きしめ直すのに交差する腕を組みなおした時、彼女の肩に触れる。それは少し冷えていたから、僕はちょっと手のひらでさすって温めようとした。滑らかな彼女の肌は、手に吸いつくように潤っている。



小さな体の形を確かめるように、少しだけきゅっと自分の胸に引き寄せた時、僕は「よけいなことを考えちゃダメだ」と、自分を叱りつけた。



美鈴さんの体が呼吸をしているのを感じ、彼女の体温が腕の中に収まっていることがすごく嬉しいのに、切なくて、それ以上強く抱きしめることができなかった。





「じゃあ、今日はこれで。僕は駅までの道は覚えてるし、ここでいいよ」

僕は美鈴さんの部屋の玄関で、靴の紐を締めて立ち上がった。僕がドアノブに手を掛けた時。

僕は右腕を彼女に捕まえられて、引き留められた。振り向くと、彼女の目が、何かを頼み込むように僕を見つめていた。

僕はちょっと、「ずるいなあ」と思ってしまった。だって、そんな顔して引き留められたら、帰らずにそばに居てあげたくなるのに。

「もう一回、だけ…」

そう言って彼女は顔を逸らして、また赤くなる。

「…うん」



その時は、僕はもうすごく驚いたりはしなかったけど、すごくドキドキするのは変わらなくて、彼女の唇に触れているのが心地いいから、今度はちょっとだけ長い間、キスをした。



唇を離したあとでさみしそうな顔をしている彼女を見て、僕は「そうだ」と思い、彼女の頭に片手を乗せる。彼女はびっくりして後ずさろうとしたけど、すぐに僕がしようとしていることがわかって安心したのか、僕の手に頭を預けてくれた。

「元気が出る、おまじない」

そう言って撫でてあげると、彼女は気持ちよさそうに目を閉じ、ゆったりと微笑む。

「また、学校で」

「うん…じゃあ、また」



優しい別れは、長引けば長引くほど、どんどん離れがたくなりそうだったから、彼女が不安にならないくらいの長さの時間を玄関で過ごし、それから僕は、二人きりの部屋を出た。