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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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「んー!美味しー!」

「うん、美味しいね」

美鈴さんの家にあったのは、子どもが喜ぶような甘口のカレーで、懐かしくて、優しい味だった。「しっかり炒めると、美味しくなるよ」と美鈴さんが言っていた通りに、お肉も香ばしくて美味しかった。

「そういえばさ、初めて学食で会った時に、馨さん、「カレーライスが好き」って言ってたし、ほんとに学食でもカレーばっかりだよね」

「うん。小さい時に食べてから、ずっと好きだよ」

「ふうん。一途だね」

「そうだね、美味しいし」

美鈴さんはとても楽しそうに食事をしながら、僕に話しかける。僕もそれに、自然と答える。僕たちは、さっきよりも緊張せずに寄り添えているような気がして、嬉しかった。


それにしても、美鈴さんは僕よりたくさんごはんとカレーをお皿に盛っていて、それをあっという間に飲み下していくのに、体はとても小さく細い。

腑に落ちない彼女の様子に、「もしかしたら、勉強でとても体力を使うからかな?」と思いながら、僕は美味しいカレーを食べていた。


食事が終わって一緒に「ごちそうさま」を言い、美鈴さんは、「お皿洗いは大丈夫。ちゃちゃっと終わらせちゃうし」と席を立った。






僕はテーブルの前で、キッチンで美鈴さんが蛇口をひねって水を流し、お皿を洗っている音、食器を水切りに重ねる時にカチャカチャと擦れ合う音を聞いていた。すると、ふと、美鈴さんの家で話したかったことを思い出した。


そうだ、「両親には知られないようにお付き合いをするから」って、言うつもりだったんだ。でも、僕はその時になって、やっと気づいた。


そんなことを僕から聞いたら、美鈴さんはきっと悲しむ。たとえどんな理由があっても、そんなのは気持ちのいいことじゃない。

本当に、彼女に話していいんだろうか?

でも、隠して付き合うことを、彼女にまで隠していたら、それは彼女に対して嘘のない態度を取れているとも言えないじゃないか。

僕は、言うべきなんだろうか。言わずに居るべきなんだろうか。


そんなふうに少しの間僕は悩み、テーブルの前に座って、美鈴さんを待っていた。






「お待たせ。そうだ、何か飲む?」

物思いに沈んでいた僕のそばに美鈴さんが帰ってきたので、僕は慌てて顔を上げる。

「あ、ああ…じゃあ、水が飲みたいかな…」


咄嗟にそう言ったけど、僕は彼女の明るい笑顔と、胸の内の考えごとを見比べて、「話せないかもしれない」と不安になった。


「そっか、ちょっと待ってね」

「うん…」